更新日:2025年1月30日
2025年問題とは?社会や企業に与える影響と対策について解説

よく耳にする「2025年問題」とは何か、その影響や企業として取り組むべきことについて解説します。また、2040年問題や2025年の崖などの似ている語句との違いについても紹介します。2025年問題を正しく理解することで、社会が抱える課題や今後の自社が目指すべき姿が見えてくるはずです。
2025年問題とは?
2025年問題を理解するために、まず日本における人口の現状を知っておく必要があります。内閣府「令和6年版高齢社会白書」によると、総人口1億2,435万人のうち、65歳以上の人口は3,623万人で全体の29.1%を占めています。一方、「生産年齢人口」に値する15~64歳の人口は7,395万人で、1995年のピーク時から年々減り続けています。
2025年は、日本にいる約800万人の団塊世代(1947年から1949年生まれ)の全ての人が75歳以上の後期高齢者になる年です。これにより、日本の人口の3人に1人が65歳以上の高齢者、そして5人に1人が75歳以上の後期高齢者となります。すでに超高齢化社会を迎えている我が国において、一段と高齢化が進む転換点となる年であり、少子化も相まって、雇用や医療・福祉など日本社会に多大な影響を与えると考えられています。このような課題を総称して「2025年問題」といいます。
参照:内閣府「令和6年版高齢社会白書」第1章 高齢化の状況
「2030年問題」「2040年問題」との違い
2025年問題の延長線上にあるのが、「2030年問題」と「2040年問題」です。特に問題とされるポイントに若干の違いがあります。少子高齢化が段階的に進むにつれて、社会や企業活動への影響がより顕著となっていきます。
- 2030年問題
2025年問題からさらに一歩進んだ状況。高齢化が進む一方生産年齢人口は減少していくため、あらゆる業界で人手不足が懸念されています。 - 2040年問題
団塊ジュニア世代(1971年から1974年生まれ)の全てが65歳以上の高齢者となる年です。これにより、人口の約35%が高齢者となり、年金や介護といった社会保障制度の維持困難や労働力不足が顕著になるなど、日本社会・経済により多大な影響を及ぼすと予測されています。
「2025年の崖」との関連性
「2025年問題」と似た言葉で「2025年の崖」があります。両者には直接的な関連性はありません。ただいずれも、日本経済に影響を及ぼす転換点を指しています。
2025年の崖は、企業などのシステムが老朽化することによって起こりうる社会的損失に警鐘を鳴らすもので、2018年に経済省が公開した「DXレポート」で登場したトレンドワードです。DXレポートとは日本企業がデジタル技術を使ってビジネスの変革・改善を促す資料のことです。それによると、ITシステムの長期運用により、老朽化、複雑化、ブラックボックス化が進み、2025年以降の日本での経済的損失は年間最大12兆円になると試算しています。
端的に示すと、超高齢化社会がもたらす諸問題についてが「2025年問題」、従来型のレガシーシステムがもたらす経済的損失を指すのが「2025年の崖」です。
参照:経済産業省「DXレポート」
2025年問題が社会・企業に与える影響
2025年問題は、社会と企業それぞれにさまざまな影響を与えると考えられます。特に年金や医療、介護といった社会的な影響は、介護が発生するなど従業員の暮らしに直結し、それにより企業の労働力不足が露呈し、廃業を余儀なくされるといった事態にまで発展する可能性があります。
社会に与える影響

社会に与える影響は大きく3点が挙げられます。
社会保障費の負担が増える
高齢者人口の割合が増加することで、医療費や年金保険、介護保険、生活保護などの社会保障に関する費用のうち、高齢者向けの支出が増加します。特に、老齢年金や介護保険は平均余命・平均寿命が延びていることから、受け取る期間や介護保険制度における要支援、要介護認定に該当する人が増加し、費用負担が大きくなることが明白です。その一方で、社会保障制度を支える現役世代の人口は減少しており、一人一人の保険料の負担額を引き上げざるを得ない状況になります。
医療・介護の体制維持が困難になる
社会保障費が増大することは、すなわち医療・介護サービスを必要とする人が増え続けていくことを意味します。需要は高まっていくものの、医療・介護を提供する側の医療従事者や介護人材はどんどんと足りなくなっていくため、これまでと同様の体制を維持し続けることが難しくなると考えられます。近年では、必要な介護サービスが受けられない「介護難民」と呼ばれる人も増えています。また、国は2024年度から医師の働き方改革にも着手しており、法律に則ったかたちで医療体制を整えなければならないといった課題も抱えています。
ビジネスケアラーが増加する
医療・介護を必要とする高齢者が増加することで、その高齢者(親)を世話する働き世代(子)の割合が増えることが予想されます。このような仕事と介護を両立する必要がある状態の人を「ビジネスケアラー」といいます。ビジネスケアラーは2012年時点で約291万人でしたが、2022年時点では約364万人となっており、10年で約70万人増加しているのがわかります。
40代以降の働き盛りであるビジネスケアラーは、介護によって仕事が制限されてしまうことで、自身のキャリアや職場内の居場所に不安を抱えてしまう可能性が高いです。また、「介護は家族で行うもの」という考えが根強く、人員に余裕がない中小企業では周囲に対して申し訳なく感じて、介護の悩みを相談したり両立する制度を利用したりしにくいと感じる方も少なくありません。これらの介護負担が離職率の増加や労働生産性の低下につながって、経済的損失を被ることが危惧されています。
参照:総務省「令和4年就業構造基本調査 結果の要約」
企業に与える影響
企業に与える影響は大小さまざまですが、事業活動に大きく影響するのが2点です。
労働力不足に陥る
少子高齢化による定年退職者の増加や若年層の人口減少の結果、労働力の確保が難しくなり、多くの企業で今後さらなる人材不足や従業員の採用競争が激化する可能性が非常に高いです。先述の医療・福祉分野だけではなくサービス業や製造業、教育関係などあらゆる業界が人材不足に悩む事態に陥ります。
人手が足りない中、1人当たりの業務負担が大きくなると、従業員の生産性やモチベーションが低下する恐れがあります。また、採用競争の激化により必要な人材が確保できないことで、事業活動そのものが立ち行かなくなる恐れがあります。
事業承継を行えず廃業が増加する
日本では、全体の企業のうち9割が中小企業であり、経営者層の高齢化が進んでいるのが現状です。そのような状況下において、後継者が決まらず、労働力も不足している場合、事業を継続することができず廃業しなければならないケースも出てきています。
廃業すると従業員が職を失ってしまうだけではなく、貴重な技術が継承されない、取引先が連鎖倒産するといった可能性も考えられます。特に伝統産業や地域に根差した産業などは、高齢の経営者によって支えられていることが多く、担い手不足が深刻です。地域に根差した企業の廃業は、地域経済の縮小につながり、廃業が増え続けることで日本経済の衰退に多大な影響を及ぼします。
2025年問題に向けた国の対策
国は、この状況を少しでも好転させるべく、多岐にわたって取り組みを進めています。代表的な3つの対策は以下です。
企業に対するIT導入・DX化の支援
IT導入やDX推進により人材不足を補い、属人化の解消が期待できるため、国はIT導入やDX推進を加速させるために多くの支援金や補助制度を用意しています。国が発表した企業価値を向上させるために経営層に求められる指針が提示された「デジタルガバナンス・コード2.0」にも、中小企業へのIT導入やDX推進の重要性が記載されています。
社会保障制度の見直し
75歳以上の後期高齢者の医療費は、公費が約5割、現役世代の支援金が約4割を負担しています。全ての世代が公平に医療を受ける社会を維持するためには、高齢者も応分の負担をする必要があるとして、2022年10月より、75歳以上であっても一定の収入がある場合、医療費負担を1割から2割へと引き上げました。高齢者の自己負担割合が増えた分、貯蓄が少なく住居費や教育費などさまざまな支出の負担が大きい現役世代の負担を軽減し公平化が図られました。
医療従事者・介護人材の確保
医療・介護従事者を確保するための取り組みも始まっています。介護業界は少子高齢化に加え、重労働や低賃金により慢性的に人材が不足している状態です。介護従事者の離職理由には、「結婚などのライフイベント」「労働環境のあり方」「将来の不安」「心身の不調」などが挙げられます。
これに対して国は、介護報酬改定を実施して給与のベースアップを図ったり、11月11日を介護の日に設定し、各都道府県で体験型イベントの開催や、若者向けパンフレットの教育機関への設置を通して、未経験者が介護職へ参入できる機会を作ったりしています。今後は、子育てしながら働くために事業所内に保育施設を作ることや意欲的に働けるキャリアパスの構築・研修、評価制度を充実させることが必要であると考えられます。加えて、外国人の介護人材の受入れや介護ロボットの導入によって、現場の負担を軽減する取り組みも進められています。
2025年問題に対して企業が今できる3つのこと

2025年問題が目の前に迫る中、それぞれの企業にできることはどのようなことなのでしょうか。
自社の状況や課題を洗い出して、社会的な課題が多くある中でも働きやすい企業となるように体制を整えていく必要があります。
労働環境の見直し
人材確保については、今後一層難しくなる可能性が非常に高いです。そのため、今いる人材を大切にすることが重要です。従業員の離職率が高い場合は労働環境を改善するなど見直しを行うことをおすすめします。具体的には、テレワークや時短勤務、フレックス制を導入し、多様な働き方を推進したり、子育て中の従業員やビジネスケアラーを理解し、支援する制度を取り入れたりします。特に、ビジネスケアラーは、高齢者の増加によって今後増加することが予測されており、仕事と介護を両立させる制度を充実させる必要があります。
一人一人の従業員が安心して仕事に取り組める職場環境や制度を整備することで、離職率の低下が期待でき、さらに柔軟性があり多様な働き方ができることを外部に発信することで、ニーズに合う人材の求人を増やすことができ、人材確保につなげられます。
事業承継の準備
事業継承の準備を早期から進めることも重要です。事業承継は後継者の育成も含めると一般的に5年〜10年前から準備する必要があります。つまり経営者が70歳で引退するなら、60歳から準備を開始する必要があります。
何から着手すればよいかわからない場合は、公的支援などを活用すると事業承継をスムーズに進めることが可能です。公的支援機関である事業承継・引継ぎ支援センターでは、事業承継についての相談や成約などを専門家と連携しながら行えます。親族内承継だけでなく、従業員承継や近年増加傾向のM&Aのサポートも受けられます。
参照:中小企業庁「事業承継を実施する」
IT導入・DXの推進
多様な働き方のひとつであるリモートワークやビジネスケアラーを支えるためには、IT化・DXの推進が必須です。また、IT・DXやデジタル化によって、省人化が見込める業務や定型的な業務などを人の手を使わず進められるようになり、人材をより利益につながる業務に割くことができるようになります。これが人手不足の解消にもつながります。さらに、属人化している業務やこれまで職人にしかできないとされていた業務などもITやAIなどの技術を駆使することで、データ化して蓄積したり、技術継承ができるようにしたりと新たな可能性を広げられるでしょう。
まとめ
2025年問題は全ての団塊世代が後期高齢者になることで高齢者がより増加し、社会保障費の増大や労働力不足を引き起こす問題のことを指します。国は少しでも状況を良くしようと、社会保障費の見直しやIT・DXの推進などさまざまな角度から施策を講じています。企業には、従業員が活躍し続けられるように働きかける積極的な姿勢が求められています。
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