更新日:2024年11月28日
育児休業給付金とは? 2025年4月からの給付額引き上げも解説

育児休業給付金は、育児休業中の賃金を一部補填し、経済的負担を軽減してくれる制度です。特に2025年4月からは、新たな支援制度が導入され、給付金の金額も引き上げられます。本記事では、育児休業給付金の給付条件や申請方法、今後の制度変更、企業として取り組むべきことについて詳しく解説します。
育児休業給付金とは育児休業取得者に支払われる給付金
育児休業給付金は、育児休業を取得した従業員に対し、雇用保険から支払われる給付金です。給付金は、育児休業中の収入が減少する従業員に対し、賃金の一部を補填する形で提供されます。そして、育児休業の開始から一定期間支払われ続けます。
育児休業給付金の目的は、従業員が育児休業を取得する際の収入減少を補い、育児休業を取りやすくすることです。これにより、出産・育児による離職を防ぎ、仕事と育児を両立しやすい環境の提供を目指しています。
給付資格
育児休業給付金を申請する場合、以下の5つの条件を全て満たす必要があります。
- 雇用保険の加入者であること
- 1歳未満の子どもがいること
- 育休前の2年間で、賃金支払基礎日数が11日以上の完全月が12か月以上ある(または、賃金の支払い基礎時間が80時間以上の月が12か月以上ある)こと
- 育児休業期間中、休業開始前の1か月の賃金の8割以上が毎月支払われていないこと
- 育児休業期間中、働いている日数が毎月10日以下である(もしくは10日を超える場合、就業時間が80時間以下である)こと
給付期間
給付期間は原則、育児休業開始日から子どもが1歳の誕生日を迎える前々日までです。ただし、それまでに職場復帰した場合は、復帰日の前日までが給付期間となります。女性の場合は、産後休業の8週間経過後からが対象で、男性の場合は子どもの出生日から対象となります。
給付期間延長の条件
以下の状況に該当する場合、子どもが1歳を過ぎても給付期間の延長が可能です。
- 保育所などの申請を行っているが、受け入れ先が決まっていない場合
- 子どもが1歳を過ぎた後に、配偶者が離婚や死亡、疾病などの特定の状態にある場合
育児休業給付金の金額

育児休業給付金の金額は、「休業開始時賃金日額」に一定の割合をかけて計算されます。「休業開始時賃金日額」とは、申請者が育児休業に入る前6か月間分の賃金を180で割った金額です。そして、ここでいう一定の割合は、育児休業開始から180日目までと、181日目以降とで変動します。
育児休業開始から180日目まで
育児休業開始から180日目までは、給付金額は以下の計算によって算出されます。
【給付金額=休業開始時賃金日額×支給日数×67%】
この給付金は、税金や社会保険料が免除されるため、実質的には休業前の賃金の8割相当の手取り額を受け取ることが可能です。
育児休業開始から181日目以降
育児休業が181日目以降に入ると、給付率が67%から50%に減額されます。したがって、以下の計算によって算出されます。
【給付金額=休業開始時賃金日額×支給日数×50%】
育児休業給付金の給付上限・下限額
育児休業給付金には、給付額に上限と下限が設定されています。支給限度額は、毎月勤労統計の平均定期給与額の増減に基づいて見直されます。2025年7月31日までの上限額は15,690円、下限額は2,869円です。
したがって、支給日数が30日の場合、67%の給付率で支給される上限額は315,369円、下限額は57,666円です。50%の給付率では、上限額は235,350円、下限額は43,035円となります。
2025年4月から育児休業給付金が拡充・引き上げ

2024年6月5日に「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」が成立しました。これにより、2025年4月1日から「出生後休業支援給付」と「育児時短就業給付」が新たに導入されることとなります。
「出生後休業支援給付」では、現行の育児休業給付金制度が大幅に拡充され、給付率の引き上げが実施されます。これにより、育児休業を取得する際の経済的な負担が軽減され、より多くの家庭が安心して育児に専念できる環境が整うことが期待されています。特に、共働き家庭での育児休業取得を促進し、男女ともに育児に参加しやすい仕組みが強化されます。
また「育児時短就業給付」では、2歳未満の子どもを育てるために短時間勤務を選択した従業員に対して、賃金補填が行われる新しい制度が設けられます。これにより、育児を理由に時短勤務を選択した場合でも、賃金の低下をある程度補填でき、柔軟な働き方がさらに推進されます。
以下では、「出生後休業支援給付」と「育児時短就業給付」の詳細について、さらに解説していきます。
夫婦が14日以上育休を取得すれば、最大28日間手取りで10割相当を給付
2025年4月1日から「出生後休業支援給付」が導入されます。これにより、育児休業給付金の給付率が引き上げられ、特に夫婦がともに育児休業を取得する場合の支援が強化されます。
この背景には、若い世代が希望に応じて結婚・妊娠・出産・育児を選択できる社会を実現するために、「共働き・共育て」を推進する必要性が高まっていることがあります。特に、男性の育児休業取得の促進が重要視されており、今回の制度拡充によって、男女ともに育児休業を取りやすい環境が整備されることが期待されています。
現在の制度では、育児休業開始から6か月(180日)までは賃金の67%が支給されます。手取り額に換算すると、おおよそ8割相当です。しかし、法改正によって新たに導入される「出生後休業支援給付」では、夫婦がともに14日以上育児休業を取得した場合、賃金の13%が上乗せされ、合計80%が支給されることになります。これは実質的に休業前の手取り額と同額に相当し、最大28日間、手取りで賃金の10割相当を受け取ることが可能になります。
この制度の適用条件は、雇用保険に加入している労働者とその配偶者が、14日以上育児休業を取得することです。父親の場合は子の出生から8週間以内の「産後パパ育休」(出生時育児休業制度)の期間、母親の場合は産後休業後8週間以内の期間が対象となります。条件を満たせば、その期間中の給付率が80%に引き上げられます。
また、ひとり親家庭の場合や配偶者が専業主婦・主夫の場合は、配偶者の育児休業取得がない場合でも給付率が引き上げられるなど、さまざまな家庭形態に対応した手厚い支援が提供されます。
2歳未満の子を育児するための時短勤務に対して賃金の10%を支給
2025年4月1日から新たに創設される「育児時短就業給付」は、2歳未満の子どもを育てるため時短勤務を選択した従業員に対して、公的な給付を行う制度です。
これまで、育児を理由に短時間勤務を選択し、賃金が減少した従業員に対する給付制度は存在しませんでした。しかし、共働きで育児を行う「共働き・共育て」の推進や、育児とキャリアの両立を支援するために、「育児時短就業給付」が導入されることになりました。
この「育児時短就業給付」により、2歳未満の子どもを育てる雇用保険の加入者に対して、時短勤務中の賃金額に対して10%の給付が行われます。ただし、時短後の賃金と給付額の合計が、時短前の賃金を超えない範囲で支給されます。
育児休業給付金の申請期間
育児休業給付金を申請するには、まず「受給資格確認手続」を行う必要があります。この手続きは、初回の支給申請を行う日までに完了させる必要があります。また、初回の支給申請と同時に「受給資格確認手続」を行うことも可能です。
支給申請の期限は、育児休業開始日から4か月が経過する日の属する月の末日までとなります。例えば、育児休業の開始日が5月15日であれば、4か月後の9月14日が経過する月の末日、つまり9月30日までが申請期限です。
育児休業給付金は通常、2か月ごとに2か月分まとめて支給されます。そのため、2回目以降の支給申請については、2か月ごとに行います。ハローワークから送付される通知書に従い、申請期限までに手続きを行ってください。
育児休業給付金申請の必要書類

育児休業給付金の申請は通常、企業の人事や労務、総務部門を通じて行われ、管轄のハローワークに提出します。電子申請も利用可能です。企業を通して申請するのが一般的ですが、従業員自身が直接申請することも可能です。
企業が用意する書類
育児休業給付金を申請する際に、企業が用意する書類については、以下のようなものがあります。
育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書
育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書は、ハローワークで直接もらうか、ハローワークのウェブサイトからダウンロード可能です。従業員の氏名・マイナンバー・雇用保険番号・資格取得日・支給単位期間・職場復帰日などを記載して、ハローワークに提出します。
被保険者休業開始時賃金月額証明書
被保険者休業開始時賃金月額証明書は、ハローワークで郵送または直接もらえる複写式の用紙です。インターネットからはダウンロードできないため注意してください。記載事項には、従業員の氏名・雇用保険番号・育児休業開始日・育児休業前の賃金支払状況などが挙げられます。
賃金の支払状況を証明できる書類
賃金の支払状況を証明するために、以下の書類が挙げられます。
- 賃金台帳
- 労働者名簿
- 出勤簿
- タイムカード
- 育児休業申出書
- 育児休業取扱通
これらの書類によって、育児休業を開始・終了した日と、休業期間中の賃金支払状況を証明します。
従業員が用意する書類
従業員側で用意する書類には、育児を行っている事実や、出産予定日・出生日を確認できる書類が含まれます。母子健康手帳(出生届出済証明と分娩予定日のページ)や、分娩予定日証明書・出産予定日証明書が該当します。これらの書類は、写しでも可能です。従業員が用意した書類は、企業を通じてハローワークに提出します。
育児休業給付金の申請方法
育児休業給付金の申請は、まず必要書類を企業がハローワークに提出するところから始まります。ハローワークで審査が行われ、給付が決定されると、企業宛てに「支給決定通知書」と、次回の申請に使用する「育児休業給付金支給申請書」が送付されます。支給が決定すると、通常約1週間後に給付金が従業員の指定口座に振り込まれます。
初回以降の支給申請は2か月ごとに行う必要があります。申請期限は「支給決定通知書」に記載されています。「育児休業給付金支給申請書」とともに、賃金台帳や出勤簿など、賃金支払状況を証明する書類を提出することで、2回目以降の申請が可能です。
育児休業に関して企業が行うべきこと
企業は、従業員が安心して育児休業を取得できる環境を整備することが重要です。まず、男女問わず育児休業を取得しやすい職場風土を醸成するために、研修を実施することが推奨されます。育児休業に対する理解を深め、従業員が気兼ねなく申請できるよう、上司や同僚も含めた全従業員向けの研修を行うことで、健全な労働環境を整えることが可能です。
また、マタニティハラスメントや育児休業に関するハラスメントのリスクに備え、相談窓口を設置し、従業員が悩みや不安を相談しやすい体制を構築することも大切です。これにより、従業員が仕事と家庭の両立を図りやすくなり、企業としても育児休業制度を円滑に運用できます。
さらに、従業員には育児休業給付金や関連制度について、徹底的に周知することが重要です。これは、従業員から必要な書類を集める際や、制度の利用を適切に進めるために欠かせません。育児休業給付金の取得意向の確認には、フォーマットを活用することをおすすめします。フォーマットには、育児休業中に利用できる制度や給付金、休業中の保険や税金の取り扱い、相談窓口の情報を記載します。これにより、従業員が制度の内容を理解しやすくなり、育児休業の取得時期や期間を早めに把握でき、業務の調整もスムーズに進みます。
なお、従業員が仕事と家庭を両立できるよう支援している企業に対し、助成金を給付する制度も存在します。これにより、企業は従業員のワークライフバランスを支援するだけでなく、経済的なメリットも享受できる可能性があります。
参照:厚生労働省「事業主の方への給付金のご案内」
まとめ
育児休業給付金は、育児休業を取得する際の経済的負担を軽減し、仕事と育児の両立を支援するための制度です。2025年4月からは制度の拡充により、給付率が引き上げられ、共働き家庭を中心にさらなるサポートが期待されます。従業員が適切に育児休業を取得し、給付金を受け取るためには、企業内での理解促進と適切な手続きが重要です。


