更新日:2025年5月15日
クリーンルームとは?仕組みや種類、業種別のクラスを解説

クリーンルームは、微小な粒子や微生物などが室内に侵入しないよう制御された特殊な部屋です。製品品質と作業環境を管理するためには必要不可欠です。
本記事では、クリーンルームについての概要と導入メリット、加えて高清浄度を維持するためのポイントをわかりやすく解説します。
クリーンルームとは
クリーンルームは、空気中の微小粒子や微生物の濃度が厳密に制御され、一定の清浄度が保たれている特殊な環境です。清浄度は「クラス」で分類され、用途に応じて基準が設定されています。製品品質と作業環境を維持するために欠かせません。
JIS Z 8122:2000による定義では、「空気中における浮遊微小粒子,浮遊微生物が限定された清浄度レベル以下に管理され,また,その空間に供給される材料,薬品,水などについても要求される浄度が保持され,必要に応じて温度,湿度,圧力などの環境条件についても管理が行われている空間」とされています。
引用:日本産業規格「コンタミネーションコントロール用語」p.30
このような環境は、半導体や医薬品の製造、精密機器の組み立て、バイオテクノロジー研究など、微細な汚染が製品や実験結果に影響を及ぼす分野で特に重要です。
企業がクリーンルームを導入するメリット
クリーンルームを導入することは、業務や製品の品質に対する信頼性や安心感を高め、企業にさまざまなメリットをもたらします。また、品質保持や効率的な製品供給、汚染防止の観点からも欠かせない設備です。
例えば、国際規格に適合する清浄度を維持することで、異物混入を防ぎ、製品の不良率を低下できます。その結果、生産性向上にもつながります。
また、企業のブランドイメージ向上にも貢献します。特に、半導体製造、精密機器製造、製薬工場などでは不可欠な設備であり、異物混入の防止や製品の品質向上、作業環境の安全性確保など、多くのメリットがあります。
このように、クリーンルームの導入は、製品の品質向上だけでなく、企業全体の競争力強化にもつながる重要な施策です。
クリーンルームが活用されている職場

クリーンルームは、食品加工工場や電子部品製造工場、医薬品製造工場など、多岐にわたる分野で活用されています。設備には、「工業用」と「食品医薬品用」の2種類があり、それぞれの用途に応じて設計されているのが特徴です。
工業用途では、塵埃や異物の侵入を防ぐことで、電子部品や精密機器の製造における品質と性能の確保に適しています。食品医薬品用途では、細菌や異物の混入を防ぎ、安全で衛生的な食品や医薬品の製造環境を提供します。
現代の製造業においてクリーンルームは、必要不可欠な設備投資の一つとなっています。
クリーンルームの4原則
クリーンルームを良好な状態に保つためには、遵守すべきルールがあります。
持ち込まない
作業者はクリーンウェアに着替えた後、エアシャワーで埃を取り除いてから入室します。室内は常に陽圧(空間内の気圧が外部よりも高い状態)に保たれ、出入口・排出口からの空気流入を防ぎます。材料や機器を持ち込む際は、洗浄後にパスボックスを使用します。
また、人の出入りもエアシャワーを通して行い、漏れを最小限に抑えるよう注意が必要です。室内の圧力を常に管理することで、清潔な環境を維持しています。
発生させない
無駄な発塵を防ぐためには、無塵衣、防塵衣、クリーンウェアなどの着用が必要です。また、塵埃の発生源となりやすい材料や備品の使用を控えるのも大切です。
さらに、作業場の状況を常に確認し、天井や壁のヒビや剥がれに注意を払いましょう。余計な動作を控え、余計な物を持ち込まないことも発塵を抑制する対策となります。
堆積させない
掃除しやすいレイアウトは、埃や汚れが溜まりにくくする対策として有効です。物を直置きせず、設備と壁の間に隙間を作ることで清掃に苦がなく清潔に保てます。
床や壁は強度があって平滑な素材を選び、入隅部分はラウンド構造にしましょう。また、ダクトや配管の露出を減らし、帯電や除電対策も必要です。掃除のマニュアルは定期的に見直し、基準に基づいた掃除を心がけましょう。
排除する
クリーンルーム内の換気回数を増やし、気流が滞らないようにすることが重要です。特に、発塵部付近での排気や気流の調整が必要です。
クリーンルームでは、換気回数を多くし、発塵している場所で排気することで、清浄な状態に近づけられます。また、気流が一方向に流れるよう配置し、空気の滞留を防ぎます。必要に応じて、局所排気装置の設置や専門業者への相談を検討しましょう。
クリーンルームの基本的な仕組み
清浄な空間を維持するには、クリーンルーム内の微粒子や微生物を徹底的に管理する必要があります。上記の4原則はその維持に必要不可欠です。
持ち込まれる機材、資材は厳密に洗浄され、人の出入りに際してはエアシャワーを活用し、ゴミや菌の侵入を防ぎます。また、掃除がしやすい環境整備も重要です。陽圧設定を維持することや、静電気の防止や除電など、堆積しないような整備も必要です。
クリーンルーム内の空気は、天井や床に設置されたHEPAフィルタを通じて浄化され、循環することで常に清潔な状態で空気が浄化される仕組みとなります。
クリーンルームの気流別の種類
クリーンルームの気流は、一方向流と非一方向流の2方式があり、室内の清浄度や作業効率に大きく影響します。ここでは、各気流方式の特徴を詳しく解説します。
一方向流方式
高いレベルの清浄度を必要とする環境では、一方向流方式が採用されます。一方向流方式は、天井や壁面に高性能フィルタを配置し、空気を直線的に流すことが可能です。クリーンルームの清浄度を示す基準については後述しますが、一方向流方式はクラス5以上を維持できます。
この方式は、微粒子の滞留を防ぎ、常にクリーンな状態を保てる点がメリットです。対して、導入コストや運用時のエネルギー消費が大きいこと、また、設備の拡張やレイアウト変更が容易ではないことがデメリットです。
非一方向流方式(乱流方式)
非一方向流方式は、天井や壁に設置された高性能フィルタと、別の場所に配置された排気口によって、室内の微粒子を均一に分散させる方式です。作業エリアの配置に柔軟性がある点はメリットですが、清浄度は一方向流方式に劣り、クラス6~8程度となります。
運用コストは低いものの、気流の滞留や渦が発生しやすく、汚染リスクが高まる可能性があるため、設置目的に合わせた適切なクリーンルームの選定が重要です。
クリーンルームの分野別の種類
クリーンルームは、用途や必要とされる清浄度に応じてさまざまな種類が存在します。医薬品製造や半導体、食品加工など、分野ごとに異なる要件を満たす設計が施されており、それぞれの特徴を理解することで、適切な選択が可能です。
インダストリアルクリーンルーム(ICR)
工業製品の製造工程で使用されるインダストリアルクリーンルームは、空気中に浮遊する微小粒子を制御するために高性能フィルタを採用しています。半導体や液晶、精密機器の製造に利用されるのが主です。
具体的には、シリコンウェーハ、フォトマスク、ハードディスク、プリント基板など、幅広い分野で必要不可欠です。また、宇宙開発研究にも活用されています。
バイオロジカルクリーンルーム(BCR)
空気中の浮遊微生物を厳密に管理するためのバイオロジカルクリーンルームは、主にバイオテクノロジー分野で利用されます。医薬品製造や病院、食品工場などでの汚染防止に欠かせない施設であり、空気清浄度と微生物学的清浄度の維持が求められます。
細菌、真菌、ウイルスを含む汚染物質を制御し、厳しい基準を満たすことで、医薬品や食品、化粧品、遺伝子研究など、幅広い分野で活用されているのが特徴です。
クリーンルームのクラスとは
空間内の微粒子濃度に基づき清浄度を分類したものがクラスです。ここでは、各クリーンルームのクラスの特徴や具体的な用途について解説し、それぞれの環境がどのような作業に適しているのかを詳しく紹介します。
FED規格
アメリカのFED規格は、清浄度を示す基準として、日本でも長年使われてきました。この規格では、約28.3リットル(1立方フィート)の空気中に浮遊する0.5μmを超える粒子の数でクラス分けされます。
具体例として、0.5μmの粒子が100個以下ならクラス100、10,000個以下ならクラス10,000です。この規格は1963年に制定されてから、1988年と1992年に改定されましたが、2001年にISO規格へ統合され、現在は廃止されています。
ISO規格/JIS規格
ISO規格は、1999年に国際的な統一基準として制定されました。この規格では、1立方メートルあたりに含まれる0.1μm以上の粒子の数で分類されるのが特徴です。同様の方法がJIS規格にも採用されており、クラス1からクラス8に分けられます。
ISO規格では、粒子数を指数で表す仕組みになっており、日本でもISO規格への移行が進んでいます。
それぞれの規格対応表
以下の表は、ISOクラスとFEDクラス、それに対応する許容粒子濃度(個/㎥)を粒径ごとに示したものです。クラスごとに、指定された粒径以上の粒子濃度の上限値が示されています。
ISOクラスとFEDクラスの対応表(0.5μm以上の粒子に着目)
| ISOクラス | FEDクラス | 0.5μm以上の粒子濃度上限 (個/m³) |
|---|---|---|
| ISO 3 | Class 1 | 35 |
| ISO 4 | Class 10 | 352 |
| ISO 5 | Class 100 | 3,520 |
| ISO 6 | Class 1,000 | 35,200 |
| ISO 7 | Class 10,000 | 352,000 |
| ISO 8 | Class 100,000 | 3,520,000 |
参照:NCC「クリーンルームのクラス/清浄度とは?規格や管理方法を解説」
業種ごとに求められるクラス一覧
業種や分野ごとに、求められる清浄度クラスは異なります。以下の表でまとめています。
| 産業分野 | 清浄度クラス | 求められる対応 |
|---|---|---|
| 半導体工場 | ISOクラス3〜5(FED1〜100) | 高精度な塵埃制御が求められ、集積回路の製造やエッチング、蒸着、研磨などにおいて極めて清潔な環境を維持する。 |
| 電子部品工場 | ISOクラス5〜7(FED100〜10,000) | プリント基板やディスク、コンデンサーなどの製造過程で、部品の欠陥を防ぐための細かい塵の管理を行う。 |
| 光学機械工場 | ISOクラス5〜7(FED100〜10,000) | レンズやカメラ、レーザー機器などの精密機器製造において、清潔な空気環境を保ち、製品の精度を確保する。 |
| 精密工場 | ISOクラス5〜7(FED100〜10,000) | 時計やロケット部品、ミニチュアベアリングなどの精密な製品に対して、微細な埃を除去し、品質を保つための管理を強化する。 |
| 薬品・食品工場 | ISOクラス5〜8(FED100〜100,000) | 乳製品や醸造品、食肉加工などにおいて、異物混入や害虫防止を目的とした空間清浄化を行う。 |
| 印刷工場 | ISOクラス6〜8(FED1,000〜100,000) | 印刷品質向上と仕上がりの精度を保つため、製造工程での埃や不純物の管理に重点を置く。 |
| 自動車部品工場 | ISOクラス6〜8(FED1,000〜100,000) | 部品製造時に発生する鉄粉や切削くず、汚れなどの物理的な不純物を徹底的に取り除く。 |
| 病院、手術室、治療室 | ISOクラス6〜8(FED1,000〜100,000) | 空気感染防止のため、患者と医療従事者を守る空気清浄技術を使用し、厳格な衛生管理を行う。 |
参照:アイオン株式会社「クリーンルームのクラスとは?業種別に求められるクラスの違いも紹介」
クリーンルームの換気方式

換気方式は、半導体製造や医療現場などで重要な役割を果たしています。ここでは、クリーンルームで使用される具体的な換気方式とその特徴について詳しく解説します。
オールフレッシュ方式
ファンフィルタユニット(FFU)により外気を導入し、室内に清浄な空気を供給する方式です。全ての空気が入れ替わることから、危険物の取り扱いや臭気の発生する作業に適しています。
特に有機溶剤などが発生する環境で効果的ですが、フィルタ交換の頻度が高くなる点に注意が必要です。
循環方式
空調機を使用し、室内の空気を循環させてFFUに給気する方式です。一度温調されたクリーンエアを再利用することで、省エネ効果に優れ、フィルタの交換頻度も低く抑えられます。ただし、扉の開閉時には室内への粉塵の侵入が影響することもあります。
クリーンルームの換気回数
清浄度を保つためには、換気回数が重要な役割を果たします。一般的な換気と異なり、クリーンルームではフィルタを使って室内に清浄な空気を供給します。
特に、HEPAやULPAフィルタを使用することで、効率的な換気が可能です。換気回数はクラスや換気方法によって異なりますが、フィルタの数を増やすことで、より効果的に清浄度を維持できます。
例えば、ISO規格のクラス5では、換気回数は約300回が目安となりますが、実際の条件によって異なる場合もあります。
クリーンルームにおける代表的な異物
異物の混入が厳しく管理されているクリーンルームでは、微細な異物でも製品品質に重大な影響を及ぼす可能性があります。注意が必要な異物は以下の通りです。
繊維くず
繊維くずは軽くて飛散しやすく、静電気を帯びやすいため、清掃時に取り除くのが困難です。主に衣類に使われる化繊などの短く細い繊維で、クリーンルーム内で完全に除去するのはほぼ不可能です。また、生産材にも多く含まれており、異物として混入しやすい特性があります。
金属片
金属片は工場内でよく見られる異物で、清掃によって簡単に取り除けますが、製品に付着すると硬さが原因で微小な傷をつけたり、導通に影響を与えたりする可能性があります。製品の性能に悪影響を及ぼす恐れがあるため、注意が必要です。
特にクリーンルームでは発塵の完全な防止が難しく、維持管理が重要です。AIやロボットの導入が進んでも、クリーンな環境を保つための課題は依然として残っています。
その他の異物
上記以外にも、クリーンルームでは業界ごとに異なる異物が存在します。食品・製薬業界では毛髪、虫、塩ビといった装置に起因する異物が多く、塗装・表面処理業界では、塗装カスやコンベアカスがよく見られます。
これらの異物は清浄度に深刻な影響を及ぼすため、発生源の特定や除去、徹底した清掃が欠かせません。また、電子部品や医療機器、フィルム業界などでも特定の異物混入が問題となっており、各業界での適切な対策が求められます。
クリーンルームを高い清浄度で保つためのポイント
クリーンルームの清浄度を維持するために、必要なクラスを明確にし、それに応じた設備と換気方式を導入することが重要です。各業種や分野に適したクラス設定を行い、適切な換気回数を確保しましょう。
また、クリーンクラスに対応する備品、例えばクリーンウェアや低発塵の文具をそろえることも欠かせません。クリーンルームの設立時には、作業内容や製品の要求品質、コスト、歩留まりを考慮して最適なクラスを設定し、コスト増大を防ぐことが求められます。
まとめ
クリーンルームの導入は、品質管理や効率的な製品供給だけでなく、企業の安心と信頼の構築に欠かせません。クリーンルームを設置する際は、業種や分野ごとに求められる洗浄クラスや気流方式などの違いを理解することは重要です。品質管理の向上や生産効率化に向けて、クリーンルームを適切に設置しましょう。


