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更新日:2025年5月15日

フルハーネスの正しい使い方は?注意点や着用義務も解説

フルハーネスを着用して足場を登る作業員
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高所作業時の安全確保のための重要な器具であるフルハーネスは、法改正により2022年1月に着用が義務化されました。同時に安全帯の規格も変わったため買い替えた方もいるのではないでしょうか。ここでは、フルハーネスの正しい付け方や注意点などについて解説します。

フルハーネスとは?

フルハーネスを着用して高層ビルの窓ガラスを清掃する作業員

フルハーネスとは、肩・胸・腰・腿ベルトやバックル、ランヤードなどで構成されたハーネスのことです。高所作業で足を踏み外したり滑ったりしたときに、肩や胸、腰など複数箇所で体重を支えて落下を防ぎます。

フルハーネスは安全性の確保のために構造やパーツの強度などの要件が定められていますが、背中側のベルトがX型やY型だったり、ランヤードが2本あったりと、要件の範囲内で形状が異なる場合があります。作業場所や使いやすさを考慮して、自分に合うものを選びましょう。

また、製品によって最大重量(着用者の体重+各種装備の重量)が異なるため、フルハーネスを着用する方の体重などを考慮して選ぶことが大切です。

例えば、体重85kgの方は、作業着やその他の装備品などの重さが加わると85kgを超えるため、最大重量85kgのフルハーネスでは落下時に支えきれない可能性があります。必ず最大重量が「自分の体重+各種装備の重量」以上のフルハーネスを選ぶようにしましょう。

フルハーネスの正しい付け方

フルハーネスは高所作業時の安全性を高めるためのものですが、付け方を間違えると安全性が確保できなくなってしまいます。自分自身を守るためにも、フルハーネスの正しい付け方を把握しておきましょう。

事前準備:作業前点検を実施する

フルハーネスを着用する前に必ず作業前点検を行い、各パーツが正常に機能するかどうかを確認しましょう。各ベルトが裂けたり劣化したりしていないか、バックルが変形したり破損したりしていないか、ランヤードが擦り切れていないかなども細かくチェックします。

同時に着用者の持ち物もチェックしましょう。例えばフルハーネスはほかの器具よりもベルトの数が多いため、ポケットにスマートフォンや筆記用具などが入っていると着用時に圧迫されて邪魔になる場合があります。

着用時に邪魔になりそうなものは、あらかじめ取り出しておくか、別のポケットに移動しておきましょう。フルハーネス対応の作業着やベストであれば、ベルトとポケットが干渉しないように設計されていて使いやすいので、購入を検討してみましょう。

1.肩ベルトを装着する

フルハーネスの肩ベルトの装着方法

作業前点検によって問題がないことが確認できたら、さっそくフルハーネスを装着しましょう。フルハーネスの背中部分に取り付けられているDリングを掴んで持ち上げ、ベルトがねじれている箇所がないかどうかを確認します。

ベルトのねじれを直したら、肩ベルトを腕に通して肩にしっかりとフィットさせましょう。その後左右均等になっているか、背中のDリングが肩甲骨の真ん中に来ているかを確認したら次の工程に移ります。

2.胸ベルトを胸の前で固定する

フルハーネスの胸ベルトの固定方法

肩ベルトが装着できたら、胸ベルトのバックルを胸の前で連結させて固定します。そして緩すぎずきつすぎない適度な状態になるように、ベルトの長さを調節しましょう。

ベルトが緩すぎると落下時に体勢が崩れたり、ベルトが抜けてしまったりする恐れがあります。また、きつすぎると呼吸が苦しくなるので注意しましょう。

3.腿ベルトを装着する

フルハーネスの腿ベルトの装着方法

胸ベルトの調整が完了したら、次は腿ベルトを装着しましょう。左右の腿にそれぞれしっかりとベルトを巻き付け、バックルで固定します。腿ベルトは足の間から前に持ってきて装着するので、ベルトがねじれないように注意してください。

また、胸ベルトと同様にベルトの長さを調節できるので、緩すぎずきつすぎない適度な長さに調整しましょう。

4.バックルで各ベルトを調整する

腿ベルトを装着し終えたら、各ベルトのバックルで適切な長さに調整しましょう。少し身体を動かしてみるなどして、全体のフィット感を確認してください。

また、全てのベルトが適切な位置にあるか、ねじれたり緩んだりしているところがないかを再度確認します。

5.背中のDリングの位置を確認する

続いて、背中のDリングの位置に問題がないかどうかを確認します。Dリングは落下時の衝撃を和らげるための、非常に重要なパーツです。Dリングの位置がずれていると、落下したときに想定外の場所に衝撃が伝わりケガをするリスクがあります。

Dリングが肩甲骨の真ん中に来ているか、左右のどちらかに偏っていたり、肩甲骨の上部や下部に来たりしていないかをチェックして、必要に応じて調整することが大切です。

6.全体の調整と最終確認をする

Dリングのチェックが完了したら、あらためてフルハーネス全体の確認と調整を行いましょう。全てのベルトやパーツが適切な位置にあるか、ねじれや緩みがないか、ベルトを締めすぎていないかなどをチェックします。

背中側は自分で見るのが難しいので、ほかの作業員などにもチェックしてもらいましょう。第三者なら自分では見えないところまでチェックできるので、より安全性が高まります。

フルハーネスを正しく付けられていない場合に考えられるリスク

フルハーネスを正しく装着できていないと、事故やケガのリスクが高まります。具体的にはどのような事故やケガが発生する可能性があるのかを知っておきましょう。

落下した際に首が絞まる

フルハーネスを正しく装着できていないと、落下時に首が絞まる恐れがあります。特に肩ベルトが緩いと、落下してDリングに体重がかかった際にフルハーネスがずり上がり、胸ベルトで首が圧迫される可能性があるため注意が必要です。肩ベルトに緩みが出ないように、適切な位置でしっかりと固定するようにしましょう。

フルハーネスから身体が抜け落ちる

フルハーネスの付け方を間違えていると、落下時の衝撃で身体が抜け落ちるリスクがあります。特に胸ベルトや腿ベルトが緩いと、身体が抜け落ちやすくなるため大変危険です。

また、作業時に緩んだベルトが周辺の物に引っかかり、転倒・落下するリスクも高まります。きちんとベルトが身体にフィットするように調整しましょう。

落下時のダメージが大きくなる

フルハーネスの不適切な装着は、落下時のダメージを増大させるというリスクもあります。例えばDリングの位置がずれていると、落下時に身体のバランスが崩れて前に倒れ、胸部や腿、腹部など身体の一部に衝撃が集中してケガをするリスクがあります。

また、腿ベルトが緩いと落下時にベルトが股間に食い込み、大きなダメージを受ける場合があります。Dリングが肩甲骨の真ん中に来るよう調整すること、ベルトが緩まないように調整することが大切です。

胸や内腿が鬱血する

不適切なフルハーネス装着は、落下後に鬱血を引き起こす可能性があります。特に胸ベルトや腿ベルトが緩いと、宙づり状態になった場合に胸や腿に過度な圧力がかかり、鬱血するリスクが高まります。

救助に時間がかかり長時間鬱血状態が続くと、血液が正常に循環できなくなって深刻な健康被害につながったり、心停止や脳死を引き起こしたりする恐れがあり大変危険です。

こうしたリスクを防ぐには、各ベルトを適切な長さに調整し、落下時の衝撃や身体の重さが全身に分散されるようにすることが重要です。

フルハーネスの適切なメンテナンス方法

フルハーネスを着用した作業員

フルハーネスをより安全に、快適に着用するには小まめなメンテナンスも欠かせません。メンテナンス方法が間違っていると劣化しやすくなるので、適切なメンテナンス方法を知っておきましょう。

中性洗剤で洗浄する

フルハーネスが汚れたときは、まずぬるま湯で洗浄しましょう。ぬるま湯だけで汚れが落ちない場合は、中性洗剤をぬるま湯に溶かしたものに浸けて、手洗いでやさしく洗浄します。

そして、洗浄が完了したらぬるま湯でしっかりと洗剤をすすいでください。これでベルトやパーツを傷めることなく汚れを落とせます。

ベルトやパーツが傷む可能性があるので、洗濯機で洗ってはいけません。また、柔軟剤や漂白剤入りの洗剤を使うのも避けましょう。塗料や油汚れが落ちないからといって、強力な化学薬品が含まれる溶剤などを使って落とすのも厳禁です。

直射日光の当たらない風通しのよい場所で自然乾燥させる

フルハーネスを洗浄し終えたら、屋内の風通しがよい場所で自然乾燥させましょう。紫外線が当たるとベルトやパーツが劣化しやすくなるので、直射日光が当たる窓辺などに干すのは避けてください。

早く乾かしたいからといって高温になる場所に干したり乾燥機で乾かしたりするのもよくありません。また、洗浄・乾燥時にショックアブソーバの内部に水が入りこまないように注意しましょう。

涼しく乾燥した場所に保管する

洗浄・メンテナンスが終わったら、涼しく乾燥した場所に保管しましょう。高温多湿の場所に置いておくと、ベルトにカビが生えたりパーツの劣化が進みやすくなったりしてしまいます。

さらに紫外線もベルトやパーツが劣化する原因になるので、風通しがよくて湿気が少なく、直射日光が当たらない場所に保管するのが理想的です。

また、海が近かったり化学薬品を扱う工場だったりする場合は、塩分や刺激物、酸などの腐食性物質が触れないように注意しましょう。

なお、フルハーネスは吊り下げて保管した方が形状が崩れにくくなります。丸めたまま車のトランクに放置したり、バッグに入れたままにしたりするのはできるだけ避けましょう。

フルハーネスを使用する際の注意点

フルハーネスの使用にあたり、いくつか注意したいことがあります。法律や身の安全に関わる内容なので、使用前に目を通しておきましょう。

高さ6.75mを超える箇所では着用が義務化されている

これまで高所作業時の安全を確保する器具は「安全帯」と呼ばれており、「ハーネス型」「胴ベルト型(1本つり)」「胴ベルト型(U字つり)」の3種類がありました。しかし、胴ベルト型(U字つり)は作業時の姿勢を維持する目的の器具であり、落下防止機能がありません。

そのため、2018年の労働安全衛生法改正の際に名称が「墜落制止用器具」に変更され、ハーネス型と胴ベルト型(1本つり)の2種類のみが墜落制止用器具として扱われることになりました。胴ベルト型(U字つり)は原則使用不可、フルハーネスとセットにした場合のみ使用可能です。

また、この法改正によって2022年1月2日以降、高さが6.75mを超える場所で作業する場合はフルハーネスを着用することが義務付けられました。

高さが6.75m以下の場合は胴ベルト型(1本つり)も使えますが、フルハーネスの方が安全性が高いため、できるだけフルハーネスを使用することが推奨されています。特に高さが5m以上(柱上作業では2m以上)ある場所では、フルハーネスを使うのがおすすめです。

なお、高さが2m以上あり作業床が設置できない場所でフルハーネスを着用して作業をする方は、学科4.5時間・実技1.5時間の「安全衛生特別教育」を受講する必要があります。

安全衛生特別教育は社内で実施可能ですが、教育内容が法令で決められています。また、教育内容について十分な知識と経験がある人物が講師となるよう求められているため、社内で対応しきれないこともあるかもしれません。そのような場合は、外部機関が実施している安全衛生特別教育を受講するとよいでしょう。

参照:厚生労働省「安全帯が『墜落制止用器具』に変わります!

破損や劣化があればすぐに交換する

フルハーネスに不具合があると、万が一のときに身を守れなくなる恐れがあります。着用時の作業前点検だけでなく、定期的に細かな点検とメンテナンスを行い安全性を確保しましょう。定期点検の際に特にチェックしておきたいのが、下記のような項目です。

  • 全てのパーツが揃っているか
  • 全てのパーツが問題なく動くか
  • ベルトやランヤードが擦り切れたり傷ついていたり、ねじれたりしていないか
  • ベルトやランヤードに塗料や薬品が付着していないか、または塗料や薬品によって変色や溶解、硬化などの異常が発生していないか
  • 縫い糸が切れたりほつれたりしていないか
  • 金具が摩耗したり変形したり、亀裂が入ったりしていないか
  • パーツのコーティングが剥がれたり溶けたりしていないか など

メーカーがチェックリストを公開している場合があるので、それを活用するのもよいでしょう。

なお、フルハーネスは使用開始から3年で新品に交換することが推奨されています。ただし、3年経つ前でも破損や劣化が見られる場合は、速やかに交換しましょう。1回でも強い衝撃が加わったフルハーネスは、見た目に異常がなくても強度が落ちている場合があるため注意が必要です。

また、ランヤードはほかのパーツよりも劣化が早い傾向にあります。使用開始から1年以上経っているものは短いスパンで点検し、2年経過したら新品に交換しましょう。

ベルトに化学製品や高温の物質を近づけない

フルハーネスのベルトは、合成繊維で作られているのが一般的です。また、その他のパーツは樹脂や金属であるため、化学物質や高温のものに接触すると溶けたりサビたりして強度が低下する恐れがあります。

特に酸やアルカリなどの化学物質は繊維を溶かしてしまうので、フルハーネスに付着しないよう注意しましょう。塗料などが付着した場合も溶剤を使うのは避けて、乾いた布などで拭き取ってください。

また、先述の通りフルハーネスは紫外線にも弱いので、直射日光が当たる場所に放置しないようにすることが大切です。

まとめ

2022年1月2日より、高さ6.75mを超える場所での作業時にはフルハーネスの着用が義務化されています。ほかの器具より安全性が高いので、高さ6.75m以下の場所でもフルハーネスを着用するのがおすすめです。ただし、付け方を誤ると安全性を確保できないため、正しい付け方を覚えておきましょう。

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