更新日:2025年5月15日
ロックアウトとは?重要性や実施手順、必要な器具について解説

機械や設備のメンテナンス中の労働災害はどれだけ注意をしても絶えないのが実情です。ロックアウトは、作業・点検中に他の人が誤って機械や装置を稼働させないために欠かせないシステムです。本記事では、ロックアウトの重要性や実施手順、連携して使用するタグアウトとの違いを解説します。また、ロックアウトを適切に活用しない場合に起こりうる事故についても紹介します。
ロックアウトとは?
ロックアウトは、機械や設備のメンテナンス作業中に起こりうる、誤作動を未然に防ぐためのシステムです。ロックアウトの概要と、併用して使用することで安全性をさらに高められるタグアウトについて解説します。
言葉の意味
「ロックアウト」の由来は、「締め出す」「閉鎖する」といった意味を持つ英語の「lockout」です。産業安全におけるロックアウトとは、機械や設備の点検・修理などの前に、スイッチやバルブ関連、ブレーカーなどのエネルギーの供給を遮断し、その状態で施錠することを指します。メンテナンスの前にこの措置を行うことで、ほかの作業員のミスによる誤作動や感電といった労働災害を防ぎ、安全に作業を進められます。
タグアウトとの違い

ロックアウトと併用して行われる安全対策が「タグアウト」です。設備や機械のエネルギー源を遮断するロックアウトに対し、タグアウトは、停止中や点検中であることを作業者へ知らせる注意喚起として使用されます。
タグアウトは、「危険」「使用禁止」などを示す警告タグです。警告タグは、日本語だけでなくイラストや外国語も併記して使用されることがあり、外国人労働者などでも一目でわかりやすいのが特長です。また、ロックアウトした日時や担当者、作業内容などを記載する欄を設けるなど、再稼働する際にスムーズに連絡が取れる工夫がされています。
ロックアウトとタグアウトを連携することは、周囲への注意喚起を促し、事故や労働災害を防ぐ安全対策の補強として有効です。
ロックアウトの重要性
点検や補修の際には、なぜロックアウトを行うことが重要なのでしょうか。その主な2つの理由について詳しく解説します。
従業員の安全確保のために必要
製造業の現場では、機械による巻き込み事故が後を絶ちません。厚生労働省が発表した「令和5年の労働災害発生状況」によると、労働災害の発生が最も多いのが製造業で、死傷者数は令和5年だけで27,194人にも上ります。そのうち機械による「はさまれ・巻き込まれ」による死傷者数は4,908人で、約5分の1を占めています。この結果から、いかに製造業に労働災害が多く、なかでも機械にはさまれたり巻き込まれたりする事故が多いかがわかります。
こうした事故の中には、点検や修理中であることが伝わらず、別の作業員が誤って機械を作動させ、負傷するケースもあります。大型機械などははさまれたり巻き込まれたりすると命に関わることも多く、作業員の安全確保のためには、メンテナンス前のロックアウトは非常に重要です。
参照:厚生労働省「令和5年の労働災害発生状況を公表」
労働安全衛生規則を遵守するためにも必要
機械のメンテナンスの際の安全対策は、法令にも定められています。労働安全衛生規則第107条では、機械の掃除や検査を行う際の安全措置について、以下のように義務づけています。
- 事業者は、機械(刃部を除く。)の掃除、給油、検査、修理または調整の作業を行う場合において、労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、機械の運転を停止しなければならない。 ただし、機械の運転中に作業を行わなければならない場合において、危険な箇所に覆いを設ける等の措置を講じたときは、この限りでない。
- 事業者は、前項の規定により機械の運転を停止したときは、当該機械の起動装置に錠をかけ、当該機械の起動装置に表示板を取り付ける等同項の作業に従事する労働者以外の者が当該機械を運転することを防止するための措置を講じなければならない。
引用:厚生労働省「労働安全衛生規則第107条」
従業員の安全確保と労働安全衛生規則の遵守どちらにおいても、ロックアウトは重要であると理解できます。
ロックアウトのミスによる労働災害の例
ロックアウトを怠ると、労働災害につながるケースがあります。以下にロックアウトを使用しない、または正しく設置していない場合に起こりうる、現場での労働災害の事例を紹介します。なお、紹介した事例は実際に起こったものではありません。
例1. 機器メンテナンス中の誤作動に巻き込まれる

最初のケースは、作業員がメンテナンス中に誤作動により巻き込まれる労働災害の例です。機器のメンテナンス前にロックアウト、タグアウトを怠り、ただスイッチを切っただけで点検作業を進めた際に、別の作業員が間違えて誤作動を起こす場合があります。自分が注意しても、機器が作動すれば巻き込まれ事故の危険があります。
例えばエレベーターの点検など、複数の作業員が互いに離れた場所で作業を行う場合、どちらか一方が現場に残っているのに設備を作動させてしまうのはよく起きるケースです。また、機械のメンテナンス中に別の作業員がスイッチをオンにして、手や指をはさまれるケースもあります。
ヒューマンエラーや伝達ミスはいくら気を付けても完全になくすのは困難です。そのため、そもそも機械や設備が作動しないようにしておくことが重要です。
例2. エネルギーの遮断ミスによって感電する
次は、正しい手順でロックアウトが行われておらず、エネルギーの供給が完全に遮断されずに起きる労働災害のケースです。電気の遮断が不完全で感電してしまうことがあります。また、機器や配管の残圧抜きが不十分な場合は、薬液やオイルなどが噴出して火傷を負ってしまうこともあります。感電や、薬液や高温のオイルがかかるような事故は、命に関わる危険があります。そのためロックアウト、およびタグアウトの際は、正しい手順で行うことが大切です。
ロックアウトの手順
ロックアウトの手順は、企業や製品ごとに定められており、それぞれのマニュアルを確認し、詳細をチェックする必要があります。ここでは、一般的なロックアウトの手順について紹介します。
1. 作業の通知を行う
まずは実際の作業に入る前に、影響を受ける作業員や関係者に作業の通知を行います。通知の際は対象となる機器や設備、作業責任者や作業内容、再度機器や設備が使えるようになる目安の時間など、詳しく伝えましょう。エレベーターやエスカレーターなど、一般の人が使用する設備の場合は、可能であれば張り紙などで事前に通知しておきます。また、作業当日はメンテナンス中であることを示す看板を設置しましょう。作業中に一般の人が誤って近づくことのないよう囲いなどの準備も必要です。
2. 機器・設備を停止させる
周囲への通知を終えた後は、機器や設備などの停止手順をよく確認し、正しい手順で停止させます。 機器・設備の起動装置をすべて停止させてください。
3. エネルギーの遮断を行い、ロックアウト装置を装着する
機械の停止後は、誤作動や事故を予防するために、電気や油圧、空圧、薬品や熱、重力といったエネルギー源をすべて遮断することが大事です。関連するバルブやブレーカーなどをすべてOFFにしたことを確認後、その状態を維持できるよう、ロックアウトの器具や南京錠を取り付け、固定してください。同時にタグを遮断装置に吊り下げて、周囲への注意喚起も行います。
4. 残留エネルギーの放出を行う
機器や設備を停止して動力源を遮断した後も、まだ機器内や回路などにエネルギーが残留している場合があります。電気系統は電気が残っていると、感電のおそれがあります。また薬品・液体関連の機器は残圧があると、薬剤・液体が飛び出してくることがあるので危険です。空圧や油圧、ガスや電気などの残留エネルギーは、決められた手順にしたがって安全に放出してください。残留エネルギーがなくなるか、安全なレベルまで抑制されていることが確認できるまでは、作業をはじめてはいけません。
5. 安全を確認し作業を実施する
すべての工程が完了したら、安全確認を行います。作業員が危険な場所にいないか、エネルギーが完全に遮断されているか、ロック装置がしっかりと固定されているかなど確認してください。さらに機械や設備を起動させ、動かないことも確認し、安全が十分に確保できたら、作業をはじめてください。
ロックアウトに使われる器具
ロックアウトを行うには、専用の器具が必要です。ロックアウトを実施する装置によって、使用する器具は異なります。ここでは、ロックアウトやタグアウトの器具について、詳しく紹介します。
コンセント・プラグ用ロックアウト
コンセントやプラグをロックアウトするための器具です。コンセントの穴に差し込んで通電を防ぐものや、プラグを含めたコードの先端全体を包み込むもの、差し込んだり包み込んだりした上で施錠できるものなど、さまざまなタイプがあります。素材は電気を通さないプラスチック製のものが主流です。専用器具で通電を遮断することにより、作業中の誤作動や感電を防げます。
ブレーカー用ロックアウト
ブレーカーをロックアウトする際に使用する専用器具です。ブレーカーのスイッチ部分を包み込むようにかぶせてねじなどで固定します。鍵をかけることでブレーカーが上がらないようにする仕組みのものが主流です。こちらも電気を扱うため、カバー部分の素材は電気を通しにくいプラスチックやナイロンがよく使われています。シングルのブレーカーに装着できるものや、二連・三連用、サーキットブレーカー用など、ブレーカーの形状に応じてさまざまな種類のものが販売されています。購入の前にブレーカーのスイッチの形状をよく確認し、適合するものを選びましょう。
バルブ用ロックアウト
バルブ用ロックアウト器具は、バルブのハンドル部分を固定し施錠することで、物理的にハンドルを回せないようにする道具です。円形のハンドルにかぶせて施錠するもの、ボールバルブの固定に適した鉤型のものなどさまざまな種類があり、南京錠がセットになったものもあります。素材は耐薬品性や電気絶縁性、耐久性などにすぐれたプラスチック製が主流です。バルブのハンドルの形状にあわせて、適したものを選びましょう。
スイッチ用ロックアウト
スイッチ用ロックアウト器具は、機械や設備のスイッチを囲うようにかぶせて施錠するため、誤って押下するのを予防できる道具です。プッシュボタンにかぶせるタイプや、つまみ状のトグルスイッチ対応のものなど、形状は多岐にわたります。中身がスイッチだとわかるように透明なものが多く、透明性や耐衝撃性にすぐれた、ポリカーボネート(PC)というプラスチックの素材が主に使われます。バルブ用同様、さまざまな形状のものがあるので、必要なスイッチの形状にあわせて選びましょう。
ロックアウト用吊りタグ
機械や設備のエネルギー源を遮断し、施錠して動かないようにロックアウトした後は、それを他の人にも周知させるためにタグアウトが必要です。ロックアウト中であることを周囲に警告するための吊りタグを、施錠したスイッチやブレーカーなどにかけて注意喚起をしましょう。
タグは日本語表記以外にも、多言語に対応するものや英語のみのものがあります。外国人労働者が多い現場では、英語表記が併用されたタグがおすすめです。タグには、ロックアウト中であることを警告する文言のほかに、作業時間や作業内容、担当者などが書き込める欄が設けられているのが一般的です。それにより、設備や機械の動作が復旧する時間の目安がわかり、担当者との連絡もスムーズに取れて便利です。
タグは水や薬品で劣化しないよう、ポリ塩化ビニルなどの素材でできていたり、紙の場合はラミネート加工が施されていたりするものが主流です。
タグアウトはロックアウトとセットで行う安全対策です。必ずロックアウトの際は、吊りタグをかけるのを忘れないようにしましょう。
まとめ
点検やメンテナンス時に機械などの動力源を遮断して、鍵をかけて固定するロックアウトは、作業の安全確保対策のひとつです。加えてタグアウトによる周囲への注意喚起により、安全対策は強化されます。労働災害を未然に防ぐために、正しい理解と手順でロックアウトを利用してください。


