更新日:2024年4月30日
PVC(ポリ塩化ビニル)とは?素材の特徴やメリット、用途を紹介

PVC(ポリ塩化ビニル)という素材は、使い捨て手袋から建設資材まで、さまざまな製品に使用されています。ただし、「PVC製品を利用したり、素材の名称を見聞きしたりした経験はあるが、詳しい性質や種類はわからない」という方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、PVCがどのような素材なのかを詳しく解説します。PVCの種類やメリット・デメリットに加えて、加工例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
PVC(ポリ塩化ビニル)とは、どのような素材?
PVCとは、塩化ビニルが重合した無味無臭・透明・非結晶性の高分子化合物で、プラスチックの一種です。「polyvinyl chloride」の略で、日本語では「ポリ塩化ビニル」と表記されます。
なお、1838年にフランスで発見され、1934年にドイツで工業化されたあと、日本においては1941年から生産されている素材です。
PVCは耐水性に優れ、さまざまな形状に加工しやすいことから、生活用品から工業用まで幅広く活用されています。ビニール袋や包装用シート、配管などがその一部です。
PVCの種類
PCVは、以下の2種類に大別されることを把握しておきましょう。
- 軟質PVC
- 硬質PVC
それぞれについて詳しく説明します。
軟質PVC
軟質PVCは、塩化ビニルに可塑剤を大量に添加したうえで重合した素材です。人間の手で曲げられるくらいのやわらかさで、いわゆるビニール製品(レインコートやシート、袋、導線の被覆材、オモチャの人形など)に幅広く用いられています。
可塑剤とは、本来硬い塩化ビニル樹脂を、やわらかく、加工しやすくするために添加する物質です。代表的な可塑剤としては、「フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)」が挙げられます。
なお、可塑剤の配合量によってやわらかさの調整が可能となり、可塑剤の量が多くなるほどPVCがやわらかくなります。
硬質PVC
硬質PVCは、可塑剤を全く含まない、あるいはわずかに含むPVCです。硬くて強度に優れる一方、割れやすい性質があります。
主にパイプ状や板状に加工され、水道管をはじめとする配管やサッシ、雨樋の構造材といった建設・住宅設備関連の用途で利用されているほか、一般消費者が日々スーパーで目にする卵パックとしても活用されている素材です。
PVCのメリット
以下は、PVCのメリットです。
- 多種多様な製品に加工できる
- 耐水性に優れている
- 耐候性があり、雨や紫外線によって経年劣化しにくい
- 酸やアルコールなど、さまざまな薬品に対する耐性がある
- 安価である
それぞれについて詳しく説明します。
多種多様な製品に加工できる
PVCは、可塑剤の配合量によってやわらかさを細かく調整できるため、さまざまな製品への加工ができます。
なお、PVCに含まれている塩素原子の分極する性質によって印刷性や接着性が優れているほか、成形加工時の溶融粘度が広い温度域にわたって安定することも魅力です。
加工温度幅が広く、「押出成形」「射出成形」「カレンダー成形」「スラッシュ成形」といった多様な成形方法を選択できることから、PVCはさまざまな製品の材料として使用されています。
耐水性に優れている
耐水性に優れている点も、PVCの利点といえるでしょう。
雨水や雪に触れることがある屋根材・窓枠・雨樋や、常に水と触れている排水管・下水管・工場配管など、さまざまな建設資材に加工されています。
耐候性があり、雨や紫外線によって経年劣化しにくい
PVCは、自然環境下における耐久性に優れており、雨や紫外線によって経年劣化しにくい性質があることを覚えておきましょう。
ちなみに、自動車のPVC製外装部品を13年後に取り外して物性値を測定した調査によると、劣化がなく再利用可能という結果が報告されています。また、PVC製水道管を掘り起こして物性値を測定した調査によると、35年以上経過していても劣化していないことが確認されています。
PVC製品や使用環境によって劣化の進行度合いが異なりますが、長期にわたって使用できる点は大きな魅力といえます。
酸やアルコールなど、さまざまな薬品に対する耐性がある
PVCは化学的に安定している物質であり、さまざまな薬品(酸、アルカリなど)や油脂、アルコールに対する耐性があります。
ほとんどの無機薬品に耐え、「芳香族炭化水素類」「ケトン類」「環状エーテル類」には膨潤・溶解するものの、これら以外の有機溶剤には溶けません。
安価である
耐水性や耐候性に優れ、さまざまな製品に加工しやすいことに加え、安価である点もPVCの魅力といえるでしょう。
どんなに優れた性質を有していても、高価な素材の場合、大量生産は困難です。しかし、安価な素材なので、日用品はもちろんのこと、建設現場や医療現場至るまで、現代社会はPVCを使用した製品であふれています。
PVCのデメリット
PVCには、ここまでご紹介したメリットだけではなく、以下に示すようなデメリットもあることにご留意ください。
- 耐熱温度が低い
- 耐衝撃性に劣る
それぞれについて詳しく説明します。
耐熱温度が低い
PVCは、熱に弱い素材です。そのため、PVC製品は、電子レンジで使用したり、熱湯に浸したりするべきではありません。
「低温で重合させ、枝分れが少なく立体規則性の高いポリマーを得る」「塩素含有量を増加させる」といった手法によって熱に強いPVCの製造も可能ですが、一般的なPVCの場合、約80℃で変形が生じることを認識しておきましょう。
耐衝撃性に劣る
特に低温域において耐衝撃性に劣ることも、PVCのデメリットとして挙げられます。
ただし、ゴム特性を有する耐衝撃性改良樹脂(強化剤)をブレンドすれば、耐衝撃性を改善することが可能です。利用方法を検討したうえで、衝撃を受ける可能性が高いと予想される場合は、耐衝撃性が改善されたPVCが使用されているかどうかをチェックしたうえで購入しましょう。
素材としてPVCを使用した製品の例

以下は、PVCの主な加工例です。
- PVC手袋
- シート・フィルム
- バッグ
- PVCレザー
- パイプ
それぞれについて詳しく説明します。
PVC手袋
PVC手袋とは、軟質PVCを手袋の形状に加工した製品です。「ビニール手袋」とも呼ばれ、使い捨て用から厚手のものまで、さまざまな商品が販売されています。
なかでも、PVCは使い捨て手袋に用いられることが多い素材です。
なお、代表的な「使い捨て手袋」としては、以下に示すように、PVC以外の素材の製品も存在します。特徴・用途とあわせて確認しましょう。
| 名称 | 素材 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|---|
| PVC手袋 | PVC(ポリ塩化ビニル) |
| 美容、園芸、清掃など幅広い場面で使用される |
| ポリエチレン手袋 | ポリエチレン |
| 食品加工、調理、清掃などの低リスク作業で使用される |
| ニトリル手袋 | ニトリル(合成ゴム) |
| 食品加工、製造、調理の他、ハイリスクな医療行為などでも使用される |
| ラテックス手袋 | ラテックス(天然ゴム) |
| 医療処置、介護、園芸、水仕事、衛星作業などで使用される |
例えば、医療機関や介護施設であれば、「血液・体液に触れる作業をする際は、ニトリル製手袋を装着する」「PVC手袋やポリエチレン製手袋は、汚染リスクの低い状況で短時間使用する」といった方針を策定し、各素材の特徴を正しく把握したうえで、シーンに応じて使い分けましょう。
シート・フィルム
PVCは、シート状・フィルム状に加工される場合もあり、主に「建設用床材」や「農業用塩化ビニルフィルム(農ビ)」として活用されていることを覚えておきましょう。
なお、食品の保存や調理のために使用される「ラップフィルム」は、業務用に関しては、PVC製品やポリオレフィン製品が主流です。家庭用に関しては、ポリ塩化ビニリデンやポリエチレンを加工した製品が主に流通しています。
バッグ
軟質PVCはバッグの形状に加工され、小売店で販売されることもあります。
用途は、一般消費者向けのカバンだけではありません。原子力施設用の「貯蔵物収納バッグ」や、医療機関用の「点滴バッグ」「血液バッグ」など、多様な分野・領域で活用されています。
PVCレザー
PVCレザーとは、織物や編物にPVCをコーティングしたものです。エンボス加工(押し型で強い圧力をかけ、浮き出し模様を作る加工)を施した製品もあり、革のような外観をしています。
なお、PVCレザーは安価ではあるものの、通気性や透湿性はありません。また、ドライクリーニングによって硬化する可能性があるのでご注意ください。
パイプ
硬質PVCは、パイプの形状に加工され、水道管をはじめとする配管として、一般家庭やオフィス、店舗、工場などさまざまな施設で利用されています。
ちなみに水道配管用の製品は、日本産業規格に適合するように製造されており、顔料によって灰色や灰青色に着色されていることを覚えておきましょう。
まとめ
PVCは、さまざまな成形方法を選択できる素材で、耐水性や耐候性、耐薬品性に優れているという特徴があります。安価な素材なので、日常生活から医療現場に至るまで、多種多様なシーンでPVC製品が活用されています。
なお、PVCは万能というわけではなく、耐熱性や耐衝撃性に劣るというデメリットもあることを覚えておきましょう。メリットやデメリットを正しく把握したうえで、用途によってはPVC以外の素材の製品を選択することも視野に入れつつ、賢く使い分けることが大切です。
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