更新日:2025年3月27日
VDT症候群とは?おもな症状・原因・対策・予防方法を紹介

VDT症候群は、パソコンやスマートフォンなどを長時間使用することで、目や身体、心にさまざまな不調が現れる症状です。ディスプレイを見続けると、目の乾きや疲れ、首・肩のこり、頭痛などの症状、さらには精神的なストレスや集中力の低下などを引き起こします。
本記事では、VDT症候群の症状から原因、対策、予防方法まで詳しく解説します。
VDT症候群とは?
VDT症候群(Visual Display Terminal Syndrome)とは、パソコンやスマートフォンなどの表示機器(VDT)の長時間使用により、身体と心にさまざまな不調が現れる症状です。単なる目の疲れとは異なり、精神的なストレスや集中力低下も引き起こします。
身体的な症状としては、首や肩のこり、頭痛、目の乾燥や疲れ、視界のぼやけなどです。目を酷使することによる眼精疲労の症状に加え、長時間の同一姿勢や不適切な作業環境も影響します。精神的な症状として、ストレス、集中力低下、不安感などの不調をきたします。
目の痛みや疲れ、視界のぼやけなどは眼精疲労にも見られますが、VDT症候群は全身の疲労感や精神的ストレスなども含まれるのが特徴です。
情報機器作業、特にパソコン業務が中心となる企業においては、従業員の健康保持と業務効率の維持向上を図る上で、VDT症候群に対する適切な対策は急務です。
厚生労働省もVDT作業による健康への影響を重視しており、注意喚起を行っています。企業は従業員の健康に長時間のVDT作業が及ぼす影響を十分に認識し、適切な対策を講じる責任があります。
参照:厚生労働省「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」
VDT症候群のおもな症状
目に出る症状
VDT症候群は、パソコンやスマートフォンなどのディスプレイを長時間使用することで、目に多くの支障をきたす症状です。目の乾燥(ドライアイ)、痛み、かすみ、疲れ、充血、そして視力低下などが、目の不調に挙げられます。
これらの症状が悪化すると、集中力が低下したり日常生活に支障をきたしたり、さまざまな症状を引き起こす可能性があります。
目の健康を維持するためには、作業中に適度に休憩を取るなどの環境を整えることが必要です。1時間以上ディスプレイを見続けないなどの対策を行うことで、VDT症候群を引き起こすリスクを軽減できます。
身体に出る症状
ディスプレイ画面を長時間見続ける環境によって引き起こされるVDT症候群は、目だけではなく、身体にもさまざまな症状を引き起こします。
例えば、目の疲れからくる頭痛や、平衡感覚が乱れて起きるめまい、また疲労やストレスによる吐き気などです。
また、不適切な姿勢で長時間作業を続けることで、首、肩、腕などにしびれや痛みを感じたり、肩こりを引き起こしたり、身体にさまざまな不調をきたします。これは、同じ姿勢でいることで筋肉に大きな負担がかかり、血行不良を引き起こすことが要因です。
これらの症状は、仕事の効率を低下させ、また生活の質そのものにも影響が出るなど、日常生活にダメージを与える可能性があります。そのため、違和感があったら、VDT症候群を疑い、早期のうちに適切に対処することが重要です。
精神や神経に出る症状
VDT症候群によって引き起こされる精神的な症状のひとつに、気分の落ち込みや、これまで楽しめていたことへの興味や意欲の低下といった抑うつ状態があります。
日常生活で、特に理由もないのに漠然とした不安に襲われたり、些細なことでイライラしたりカッとなったり、VDT症候群は精神や神経にも多くの影響を及ぼします。夜になってもなかなか寝つけず、不眠の症状が表れることもあります。
これらの精神的・神経的な症状は、日常生活や仕事のパフォーマンスにも悪影響を及ぼすため、VDT症候群の症状かもしれないと感じる場合には、早急な対策が必要です。
VDT症候群の原因
目の酷使

パソコン作業やスマートフォンの長時間の使用による目への影響は、特にピント調節を行う筋肉を酷使していることが原因です。私たちの目は、水晶体というレンズの厚さを、毛様体筋という筋肉を使って調節し、遠くのもの、近くのものに絶えずピントを合わせています。
遠くを見るときには、毛様体筋が緩んで水晶体が薄くなり、近くを見るときには、毛様体筋が縮んで水晶体が厚くなる仕組みです。パソコンやスマートフォンなどを長時間使用すると、この毛様体筋が常に緊張した状態になり、目の疲れにつながります。
特に、画面とキーボード、書類など、視線を頻繁に動かす長時間の作業は目の筋肉を酷使することになり、VDT症候群の症状を増長させる原因となります。
目の乾燥
パソコンやスマートフォンなどのデバイスを用いて、集中して作業をしていると、まばたきの回数が普段の4分の1程度にまで減少します。まばたきの回数が激減することで、目の表面全体に涙が行き渡らなくなるため目が乾燥します。
また、まぶたをしっかり閉じることがない浅いまばたきは「不完全まばたき」と呼ばれますが、まばたきの減少と同様に、涙が十分に行き渡らずに目が乾き、目に負担をかけます。
角膜の傷
ディスプレイを用いた作業中は、まばたきの回数が減少し目が乾燥しやすく、角膜に傷を付ける場合があります。通常、目の表面は涙で覆われており、涙は目を潤すだけでなく、異物を洗い流す役割があります。
異物が目の表面に付着した場合、目の乾燥により涙が十分に潤っていないと涙で洗い流せません。よって、角膜の一番外側にある角膜上皮に傷を付けてしまうことがあるのです。角膜上皮は、細菌や異物などの侵入を防ぐバリアのような役割を果たしているため、傷ついてしまうと感染症のリスクが高まり危険です。
作業を長時間続ける方は、まばたきをしっかり行い、目の乾燥を防ぐことで、角膜への負担を軽減できます。角膜保護のためにも、目薬を使用するなど乾燥へのケアを心がけましょう。
VDT症候群の治療方法

VDT症候群の治療にはさまざまな方法があるため、症状に合わせて取り組む必要があります。
まず、目の疲れや乾燥を和らげるために使用されるのが点眼薬です。目薬(点眼薬)は、目の乾燥を防ぎ、目の潤いを保つため、眼精疲労の軽減に役立ちます。
また、首や肩、腰の痛みを伴う場合には、筋肉の緊張をほぐす内服薬が処方されることがあります。
さらに、目にかかる負担を軽減する眼鏡やコンタクトレンズが有効とされる場合もあります。ディスプレイを用いた作業時は、視力を適切に矯正し、目をいたわることも対策のひとつです。
しかしこれらの治療法は、症状の緩和が目的のため、根本的な治療にはなりません。VDT症候群の治療には、目のケアを中心に、総合的なアプローチが必要となるため、早めに専門医の診断を受けることをおすすめします。
VDT症候群の予防方法
デジタル社会において、パソコンやスマートフォンの長時間使用は避けることはできません。ここでは、VDT症候群のリスクを軽減するための予防方法をご紹介します。
目を休ませる
VDT症候群は、パソコン作業などで目を酷使することで、目の疲れ、乾き、充血などを引き起こします。VDT症候群の予防には、小まめに休憩を取ることが非常に大切です。
厚生労働省のガイドラインでは、VDT作業は連続1時間以内にとどめ、その間に1~2分の短い休憩を1~2回挟むことが推奨されています。また、次の作業に入る前には、10~15分の休憩時間を確保することで、目だけでなく心身への負担が軽減されるとされています。
企業においては、従業員の健康を考慮し、積極的に休憩が取れる環境を整えることが大切です。
作業中の小まめな休憩は、VDT症候群の予防だけでなく、気分転換になり、その後の作業効率の向上も期待できます。
参照:厚生労働省「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」
作業環境を整える
VDT症候群の予防には、作業環境を整えることが重要です。まず、目の負担を軽減するための対策として、部屋の明るさとディスプレイの輝度を適切に調整しましょう。
厚生労働省のガイドラインでは、机上面の照度は300ルクス以上が推奨されています。これは、新聞を読むのに必要な明るさと同程度です。VDT作業を行う場合、最低500luxの照度は確保し、可能であれば750〜1000luxの明るさで行いましょう。
また、ディスプレイに反射防止機能のある液晶保護フィルムを貼るのも、VDT症候群の予防対策のひとつです。画面への光の反射や眩しさを抑え、見やすさを向上させます。特に、周囲の光が画面に映り込みやすい環境では、保護フィルムの効果が期待できます。
さらに、パソコンのディスプレイは、目から40センチ以上離すのも有効です。画面に近づき過ぎると目に負担がかかり、遠過ぎると見えにくくなります。ディスプレイの位置は、画面の中心が正面視したときの15度下にくる位置が理想です。そのほか、アームレストを使って正しい姿勢を保ったり、マウスをトラックボールに変えて手首や肩への負担を軽減したりすることで、肩こりを防止できます。
参照:厚生労働省「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」
目の乾燥を防ぐ
目の乾燥防止は予防対策に必須です。まずは、まばたきを意識的に増やし、ドライアイや眼精疲労用の目薬を活用してください。さらに、ディスプレイの位置を目線より少し下に調整すると、目に負担がかからず目の乾燥予防になります。
また、エアコンの風が直接目に当たらないように座る位置を調整し、さらに加湿器で室内の湿度を保ちます。これらの対策は目の乾燥を防ぐために、すぐにでも実践してみてください。
眼鏡・コンタクトレンズの度を調整する
眼鏡やコンタクトレンズを使う際、VDT作業に合った度数かを確認することが重要です。遠くを見るために合わせた眼鏡では、画面の文字が見にくい場合があるため、眼科でパソコン専用に度数を合わせるなど、用途に合わせた眼鏡を使用しましょう。
また、年齢や仕事に応じて視力の矯正が必要になります。特に30代後半以降はピントの調節力が低下するため、目が疲れやすくなる傾向があります。見えにくさを感じるようになったら、専門医に相談して適切な度数を選ぶようにしてください。
ストレッチで適度に身体を動かす
長時間同じ姿勢でのパソコン作業が続くと、目や首、肩などに負担がかかりやすくなります。そこで適度なストレッチで身体を動かすことをおすすめします。血流アップはもちろんのこと、VDT症候群の予防にもつながるため、座りながらでも簡単にできるストレッチ方法をご紹介します。

目のストレッチ:近くと遠くを交互に見ることで、目のピント調節機能を鍛える
- 目の前に視線を向け、20~30秒ほど焦点を合わせる。
- 目を休ませるために数回まばたきする。
- 遠くの景色などに視線を移し、20~30秒ほど焦点を合わせる。
- 再びまばたきして目を休ませる。
- 上記を5回ほど繰り返す。

首のストレッチ:首の筋肉をほぐすことで、肩こりの予防にもなる
- 椅子に座り、背筋を伸ばしてまっすぐ前を見ながら両手は頭の後ろで組む。
- 頭と腕の重みで首をゆっくりと前に倒す。無理に力を入れるのではなく、重力に任せるように倒すのがポイントです。
- そのまま数秒間キープする。
- 次に、ゆっくりと頭を後ろに倒す。このとき、左右の肩甲骨を背中の中央に寄せるように意識し、5秒間キープする。
- 上記を5回ほど繰り返す。

肩のストレッチ:肩こりの軽減に効果がある。
- 両腕の肘を曲げ、指先を肩に軽く添える。
- 指先を支点として、肘で大きな円を描くようにゆっくりと腕を後方へ回す。
- 同様に、逆方向(前方)へも腕を回す。
- 上記2と3の動作を、それぞれ5回程度を目安に行う。
定期的に休憩を取り、これらのストレッチを取り入れることで、リフレッシュや疲労の予防、身体の不調の改善に効果が期待できます。
まとめ
VDT症候群を予防するには、目の疲れや乾燥を防ぐための対策をしっかりと行い、快適な作業環境を整えることが大切です。また、定期的に休憩を取り入れることで、目や身体への負担が減り、リフレッシュもできます。日常生活や職場環境に合った対策を取り入れ、VDT症候群の予防に努めるようにしましょう。

監修者
岡野 敬氏
スマイル眼科クリニック院長。前眼部疾患、緑内障、アレルギーなど一般眼科外来のほか、コンピュータ支援医療を専門とする。
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