更新日:2025年3月27日
労働条件通知書とは?法改正で追加された項目や記載事項などを解説

労働条件通知書は、企業が従業員を雇用する際に、労働条件を適切に伝えるための書類です。本記事では、2024年に法改正があった背景や変更点、具体的な記載例、また労働条件通知書の交付の際に企業が留意すべき点を解説します。法令を遵守し、良好な労使関係を築くためにぜひ参考にしてください。
労働条件通知書とは?
労働条件通知書は、企業が従業員を雇用する際の交付書類で、雇用条件を明確にする目的で発行されます。労働条件通知書には、給与、就業場所、勤務時間といった労働条件が記載され、労働者は自身の労働条件を労働条件通知書で確認できます。
また、労働条件通知書の発行により、企業と労働者の認識のズレを防止できるため、労働者を不利な立場や環境から保護できるといった目的があります。なお、2024年4月に法改正があり、新たな記載項目が追加されているため、企業は新しいルールを把握しなければなりません。
参照:厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」
労働条件通知書の発行対象者は?

労働条件通知書は、正社員だけでなく、アルバイト、パート、準社員を含む全ての労働者に対して発行する義務があります。
派遣社員の場合は、派遣元企業が労働条件通知書を交付し、派遣先での就業条件も明示する必要があります。このため、派遣元企業は「就業条件明示書」を交付しますが、重複する内容がある場合には、「労働条件通知書(兼)就業条件明示書」として一括で発行することも可能です。
なお、給与を支払う労働者全員が対象となりますが、企業と雇用関係をもたない業務委託のスタッフであれば発行義務はありません。
参照:e-Gov法令検索「労働契約法」
労働条件通知書と雇用契約書の違いは?
労働条件通知書は労働条件を通知するための文書で、雇用契約書は労働者と企業が契約を締結するためのものです。
雇用契約書は双方が内容を確認し、記名捺印が完了したら、労働者と使用者が一部ずつ保管することと決められています。一方で、労働条件通知書は、企業が作成して労働者へ通知することで完結し、記名捺印は求められません。
なお、雇用契約書は法的な発行義務はありませんが、双方の合意を証明するため、発行は推奨されます。また、企業によっては、「労働条件通知書(兼)雇用契約書」として交付している場合もあります。
労働条件通知書の作成方法
労働条件通知書の書式は決められていないため、企業ごとに独自に作成して構いません。しかし、必要な項目は漏れなく記載する必要があり、作成の際には注意が必要です。
労働条件通知書のテンプレートを使う
労働条件通知書は、厚労省が提供するテンプレートを活用すれば効率的に作成できます。このテンプレートは、一般労働者用、林業労働者用、建設労働者用など、雇用条件に応じたものが用意されており、自社の条件に合わせて選べます。Word形式とPDF形式に対応しており、簡単にダウンロードが可能です。
厚労省のテンプレートを利用することで、企業は迅速に適切な書類を交付できます。テンプレートには必要な項目が網羅されているため、企業側が記入漏れや不備を防ぎやすいのも大きな利点です。これにより、手間を大幅に省きながらも、労働者に対して明確かつ法令に準拠した条件の提示が可能です。
参照:厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)」
市販の労働条件通知書を使う
労働条件通知書を作成する際、厚生労働省のひな型となっている市販の書面を利用する方法があります。一般的には20枚綴など、冊子型で市販されているため、労働者を雇用するたびに労働条件通知書を手配する手間が省けます。
ただし自社の労働条件に適した形式の書面を選ぶことが重要です。市販の書面が手に入れば、必要事項を記入するだけで労働条件通知書は完成します。手間をかけずに法令に準拠した書類を迅速に準備できるのは、市販の書面のメリットです。
独自に作成する
パソコンで独自に労働条件通知書を作成し、メールを使って共有することも可能です。ただし、労働条件通知書をメール等で電子交付するには条件があるため、事前に以下を確認する必要があります。
まず、労働者が電子交付での受け取りを希望していることが前提条件です。送信時には、受信者が本人であることを確認し、内容が第三者に見られないよう配慮しなければなりません。また、送信するデータは書面として出力可能な形式で、印刷できることが条件です。
また、労働条件通知書を送信した後は、労働者が受信したことを必ず確認してください。これらの手順を守ることで、電子交付を適切に運用できます。
なお、自社で独自に書類を作成する場合は、法令が守られているかどうか、専門家に相談してみることも大切です。
労働条件通知書の記載事項
労働条件通知書に記載する事項は「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」の2種類に分けられ、それぞれ労働基準法で定められています。2024年4月の法改正を受け、新たに追加された明示事項も把握しなければなりません。以下で詳しく解説しますので、参考にしてください。
絶対的明示事項
絶対的明示事項は、労働条件に関わらず必ず記載しなければならない項目です。これには、昇給に関する事項を除いた基本的な労働条件が記載されており、原則として書面での交付が求められます。
また、パートやアルバイトの労働契約通知書には、パートタイム労働法に基づき、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、さらに相談窓口の記載も必要です。
ほかにも、短時間契約者や有期契約者についても、退職手当や賞与の有無、ハラスメント相談窓口などの明示が必須です。これらの絶対的明示事項は、労働契約の形態に関わらず必ず記載し、口頭での説明にとどまらず、書面での交付が求められています。
ここからは、項目ごとに詳しく見ていきます。
労働契約の期間と更新の有無
| 労働契約の期間の定め | 有無を明示 |
|---|---|
| 契約期間 | 定めがある場合、その期間を記載 |
| 更新の有無 | 明示 |
| 自動更新の有無 | 明示 |
| 更新の基準 | 明示 |
労働契約の期間および更新に関する詳細は、労働条件通知書に明確に記載しなければなりません。期間が定められているのか、いつまでが期限なのかなど、契約更新に関する基準を記載することで、労働者と使用者の間の認識の違いを防げます。
なお、契約期間は、労働基準法に定める範囲内であることが条件です。2024年4月の法改正により、有期雇用の従業員が契約期間を通算で5年以上働いた場合、従業員の申し出に応じて無期雇用に転換する必要があります。
就業場所と従業すべき業務
| 就業場所 | 内定後、実際に就業する場所を記載 |
|---|---|
| 従業すべき業務の内容 | 採用直後に従事する業務内容を記載 |
配置移動や業務の担当変更が考えられる場合には、就業場所や業務内容が変わることが予想されます。記載の義務はありませんが、変更する予定がある場合は、将来の可能性を見越した就業場所や業務内容についても併記できます。
労働時間・残業の有無・休日や休暇など
| 始業時間・終業時間 | 勤務時間の具体的な範囲を明示 |
|---|---|
| 残業の有無 | 残業が発生する場合は詳細を記載 |
| 休憩時間 | 休憩時間の長さと取得方法を記載 |
| 休日・休暇 | 週休制、特別休暇など具体的な内容を明示 |
| フレックスタイム制度 | 適用の有無と詳細条件を記載 |
| シフト制度 | 導入の場合はシフトの時間や頻度について記載 |
| 年次有給休暇 | 付与条件・日数、時間単位での取得可否を明示 |
労働時間や休日、休暇取得に関する詳細は、働きやすさや法令遵守を示す重要なポイントです。特にフレックスタイムやシフト制度、年次有給休暇の運用条件は、労働者との共通事項として具体的に記載しましょう。
賃金・昇給に関する事項
| 基本給 | 金額、算出方法を明示 |
|---|---|
| 手当 | 金額、算出方法を明示 |
| 時間外労働の割増賃金率 | 法律基準に従い、割増率を明示 |
| 昇給 | 有無、決定方法を明示 |
| 賃金の締め日 | 月末締め、その他詳細を記載 |
| 賃金の支払日 | 毎月◯日、その他詳細を記載 |
| 賃金の支払方法 | 銀行振込、手渡しなどの方法を明示 |
なお、時間外労働の割増賃金率は、労働基準法によって以下の通りに定められています。
- 法定時間外労働:25%以上
- 1ヵ月60時間超の時間外労働:50%以上
- 法定休日労働:35%以上
- 深夜労働(午後10時から午前5時まで):25%以上
企業はこれらの法定基準を下回ることのないよう注意し、割増賃金について従業員へ明確に説明することが重要です。
参照:東京労働局「しっかりマスター 割増賃金編」
解雇の事由を含む退職に関する事項
| 退職に関する明示 | 労働条件通知書で記載が必要 |
|---|---|
| 定年・継続雇用制度 | 定年制度や継続雇用制度の有無、年齢に関する情報の記載 |
| 解雇条件・手続き | 解雇される条件や手続きについて記載 |
退職に関する事項は、労働条件通知書に記載すべき事項であるものの、実際にはその詳細を全て盛り込むのが難しい場合があります。そのため、就業規則を活用して補足的に示すのが一般的です。
なお、定年年齢は、60歳を下回ることはできないといった法律による決まりがあります。さらに、2025年4月以降、継続雇用制度の経過措置に基づく労使協定を結んでいる企業であっても、継続雇用を希望する対象者を限定できなくなります。
相対的明示事項
相対的明示事項とは、会社が定めた場合に明示すべき項目です。具体的には、以下の項目が含まれます。
- 退職手当に関する事項
- 賞与・臨時賃金・最低賃金額に関する事項
- 労働者が負担する費用に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償や業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰および制裁に関する事項
- 休職に関する事項
相対的明示事項の記載に詳細な指定はないものの、上記の制度を導入している企業は、関連事項として明示しておくこととされます。賞与や退職手当は賃金項目として書面で明示する必要があります。それ以外は「その他」にまとめるのが一般的です。
労働条件通知書を交付しない場合に考えられるリスク
企業が労働条件通知書を交付しない場合には、リスクが生じる可能性があります。リスクを軽減するために事前に確認しておきましょう。
是正勧告や刑事罰の対象となる恐れがある
労働条件通知書は、労働基準法第15条および施行規則第5条に基づき、必ず交付しなければならない書類です。もし違反した場合、労働基準監督署から是正勧告を受けることがあり、迅速な是正と報告が求められます。
また、労働条件明示義務違反は刑事罰の対象となり、最大30万円の罰金が科される可能性もあります(労働基準法第120条第1号、121条)。企業は労働条件通知書を適切に発行し、法令を守ることが非常に重要です。
参照:厚生労働省「労働基準法の基礎知識」
参照:e-Gov法令検索「労働基準法」
労働者とのトラブルにつながる可能性がある
労働条件通知書を発行しない場合、労働者と使用者との間でトラブルが発生するリスクがあります。賃金や労働時間、その他の待遇に関しての労働条件の認識が異なると、企業と労働者間でのトラブルにつながります。
実際に飲食店など、賃金体系や計算方法が十分に明示されないまま雇用契約が締結された結果、未払い残業代などの問題が発生する事例がそのひとつです。
労働条件通知書の交付は、労働条件を明確化できるだけでなく、労使間の信頼関係にも寄与し、労働者の就労意欲向上にもつながります。また、契約内容に関する認識の不一致を解消することで、将来的なトラブル防止にも有効です。
なぜ労働条件明示の法改正が行われた?
労働条件の明示に関する法改正は、働き方の多様化、無期転換ルール、そして同一労働同一賃金の原則への対応を目的としたものです。
近年、テレワークや時短勤務といった多様な働き方が一般化し、従来の画一的な労働条件を統一することが困難になっています。そこで、労働条件通知書を通じて労働条件を明確化し、労使双方の合意を確実にすることが、これまで以上に重要です。
また、無期転換ルールによって有期雇用から無期雇用への転換が容易になりました。同一労働同一賃金の原則は、正規雇用と非正規雇用の間で生じている不合理な待遇差の解消を目指しています。
今回の労働条件明示に関する法改正は、これらの労働環境における変化に適切に対応するための重要な施策です。
労働条件明示の法改正におけるポイント

労働条件明示については、法改正により企業側の義務が強化されました。企業は労働契約の内容を明確にし労働者が安心して働ける環境を整えなければなりません。
法改正で追加された項目
ここでは、法改正により具体的に追加された項目について詳しく解説します。該当する変更点を理解し、追加項目に漏れのない労働条件通知書を交付してください。
全ての労働者について
| 対象 | 全ての労働者 |
|---|---|
| 企業の義務 | 就業場所と業務内容の明示義務 |
| 変更点 | 採用時条件の明示に加え、配置転換や業務内容変更範囲の明示が必要 |
従来は採用時点の条件のみ記載が求められましたが、法改正以降には、将来の配置転換や業務内容の変更範囲についても記載が必要です。
雇用直後の勤務地からほかの営業店への転勤の可能性がある場合、契約期間中に起こる変更範囲として明示しなければなりません。これにより、労働者は将来のキャリアプランを立てやすくなり、企業は円滑に人材配置ができるようになります。
この明示範囲の拡大は、労使双方にとって長期的な視点での職場環境整備に貢献すると期待されます。
有期雇用の労働者について
有期雇用の労働者に関する重要な追加項目として、特に以下の3つのポイントを押さえましょう。
<更新上限の有無と内容>
有期契約における更新上限の有無や内容は、労働条件通知書に明確に記載する必要があります。また、新たに更新上限を設ける場合や、既存の上限を短縮する際には、労働者への事前説明が必須です。
<無期転換申込機会>
無期転換とは、期間の定められた有期労働契約から、期間の定めがない無期労働契約に転換することを指します。2018年の制度改正以降、有期雇用の労働者には無期転換申込権が認められています。
労働者から無期転換の希望があった場合には、企業は、その申し出を拒否できません。労働者からの申し出には企業の慎重な対応が求められます。
<無期転換後の労働条件>
無期転換が行われた後、労働時間や給与などの条件がどのように変わるのかを事前に明示することが重要です。また、「同一労働同一賃金」に従い、有期雇用からの無期転換の場合には、同じ企業内の正規雇用労働者との待遇に差が生じないようにしなければなりません。
これらの変更点を理解し適切に管理することは、労働者との信頼構築やトラブル防止に欠かせません。
労働条件を明示する方法
労働条件の明示は、原則として書面の交付が必要です。労働条件の必要事項を記載した労働契約書2通を作成します。そのうち1通は労働者に交付することで労働条件の明示の義務を果たせます。
労働者から希望があった場合は、電子交付も可能です。具体的には、SNSやメール、FAXなどが利用できます。
電子交付を行う際の注意点は以下の2点です。
- 出力して書面を作成できる方法に限る
- 労働者本人が確実に受領したか確認する
労働条件通知書には、法令で明示すべき事項が存在しますが、具体的な形式についてのルールがありません。そのため、どのように作成するのか迷うかもしれません。
新規に労働条件通知書を作成する際には、厚生労働省が配布しているテンプレートを参考にすることをおすすめします。
参照:厚生労働省「『労働基準法施⾏規則』改正のお知らせ 平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります」
明示のタイミング
労働条件の明示は、労働契約を結ぶ際に必要であり、労働基準法第15条で定められた使用者の義務です。労働者との認識の違いによるトラブルを未然に防ぐための重要な措置となります。
新卒採用では、内定時に労働条件を明示するのが一般的です。法律で具体的な期限は定められていませんが、内定後速やかに提示することが望ましく、内定通知と同時に行うと労働者が安心して準備を進められます。遅くとも入社日までには明示が必要です。
有期契約の場合は、新規契約時と契約更新時の両方で労働条件通知書を交付し、更新するタイミングで条件を見直します。また、労働条件を変更する際にも通知書の交付が必要です。書面で明確にしてあれば、昇給、配置転換時にもトラブルを防ぎ、構築した信頼関係を保てます。
労働条件の明示は法律上の義務であると同時に、労使間の良好な関係を築く基盤として欠かせません。
まとめ
労働条件通知書は、企業と従業員との間で雇用条件を明確にする書面です。2024年4月の法改正により記載項目が追加されたため、企業の適切な対応が求められます。
給与や勤務時間などの雇用条件を明確に記載することで、従業員は入社後、安心して業務に臨め、また労働条件の認識のズレによる労使間のトラブルを未然に防げます。


