更新日:2025年5月15日
入浴介助とは?手順や留意点、必要品について解説

入浴介助は自力で入浴できない方をサポートする介護サービスであり、介助者にとっては体力を使う重労働です。また、浴室で滑るなど事故が発生するリスクもあるため、正しい手順や注意点を把握しておくことが大切です。そこで、入浴介助の基本の手順や留意すべきポイント、入浴介助の必需品などについて解説します。
入浴介助とは
入浴介助とは、要介護の方や障がいのある方など、自力での入浴が難しい方への入浴サポートです。必ずしも湯船に浸かるだけではなく、シャワーのみや蒸しタオルで身体を拭くなどの入浴方法も含まれます。
自分でお風呂に入るのとは異なり、入浴介助はする側もされる側にも大きな負担がかかります。転倒や溺没(溺れて沈む)、ヒートショック、火傷、脱水症状など、事故が起こるリスクがあるため注意が必要です。
十分な知識とスキルを持たない方が行うのは大変危険なため、入浴介助は正しい手順や注意点、必要な道具などの理解を深めてから行いましょう。
入浴介助の目的

入浴介助は、介助を受ける方の心身の健康や清潔を保つのに必要なケアです。よりよい入浴介助を行うためにも、入浴介助の目的を把握しておきましょう。
衛生を保つため
入浴介助の一番の目的は、介助を受ける方の身体を清潔に保つことです。人間の身体からは、常に古くなった角質や皮脂、汗などが分泌されています。さらに空気中のホコリや食べこぼしなどが付着することもあり、外出しなくても汚れていきます。
放置していると皮膚に汚れが蓄積したり、雑菌が繁殖したり、ニオイが出たりと衛生面で問題が生じるため、お風呂に入って汚れを落とさなければなりません。
しかし、要介護の方や障がいのある方は身体の動きに制限があるため、自分でお風呂に入るのが難しく、介助者の入浴サポートが必要になります。
異常を早期発見するため
入浴介助は、身体に起きている異常を早期発見するためにも重要な役割を担います。要介護の方の身体にできた傷や内出血、床ずれ、また皮膚炎などは、通常の食事や排泄の介助だけでは見つけられません。
要介護の方が自ら身体の異常を伝えられれば問題はありませんが、言語障がいや失語症で上手く話せなかったり言葉が理解できなかったりする状態であれば、自分の身体の状態を伝えられないことも多くあります。異常が起きたまま長期間放置していると、症状が悪化して治療が困難になる恐れがあります。
定期的に入浴介助を行えば、服を脱いだ状態で全身をチェックできるため、身体の異常を速やかに発見し対処することが可能です。
入浴効果を得てもらうため
入浴には「温熱作用」「浮力作用」「静水圧作用」という3つの効果が期待されます。温熱作用とは、お湯で身体が温まることで血行やリンパ液の流れが促進され、代謝がよくなる作用のことです。
血行やリンパ液の流れがよくなると、筋肉の緊張が和らいで痛みが緩和されたり疲れが取れやすくなったりします。また、ゆっくりとお湯に浸かると、副交感神経が優位になって身体がリラックスするため、睡眠の質の向上も期待できます。
浮力作用とは、お湯の浮力によって身体が重力から解放され、筋肉や関節への負担が軽減される作用のことです。筋肉や関節が休まり緊張が緩和されます。
静水圧作用とは、お湯によって全身に水圧がかかり、下半身に溜まった血液が心臓に戻りやすくなる作用のことです。むくみの緩和や肺機能の活性化などの効果が期待できます。このように、入浴介助には、介護の方の心身にもたらされるさまざまなメリットがあります。
入浴が困難な場合に行う「清拭」については、以下の記事もご覧ください。
<参考>
入浴介助の手順
入浴介助は、要介護の方の身体を清潔に保ったり異常を早期発見したりするために欠かせません。ただし、正しい知識やスキルを持った介助者が行わない場合、思わぬ事故が起こるリスクがあります。どのようにサポートすればよいのか、基本的な手順を紹介します。
1. 入浴前
自分がお風呂に入るときの準備はほとんど必要ありませんが、入浴介助の場合は、介助を受ける方の安全と入浴をスムーズに進めるための入念な準備が必要です。下記の手順でしっかりと事前準備を行いましょう。
- 要介護者の健康状態をチェックする(体調は悪くないか、ケガがないかなど)
- 入浴介助の必需品を用意する
- 脱衣所や浴室を温める
- 浴槽にお湯を張る
- 事前にお手洗いを済ませ、入浴後は水分補給をしてもらう
介助を受ける方の体調によっては、シャワーのみにしたり蒸しタオルで身体を拭いたりする場合もあります。入浴は血圧や心臓への負担などがかかりやすいため、入浴前の健康状態は必ずチェックしてください。
入浴介助の必需品や注意点の詳細については後述します。
2. 入浴中
事前準備が整ったら、入浴介助に移ります。基本的な手順は以下の通りです。
- 床、シャワーチェアーなどにお湯をかけて温める
- 介助を受ける方の足元からお湯をかける
- 髪の毛を洗う
- 身体を洗う
- 介助者がしっかりと支えつつ湯船に誘導する
お湯をかけたり湯船に入ってもらったりする前に、必ずお湯の温度を確認しましょう。介助者の感覚で大丈夫だと思っても、高齢の方の肌は敏感なため熱いと感じる場合があります。手先で触れるのではなく、腕の内側などの皮膚が薄い部位で温度を確認しましょう。
また、湯船に長く浸かるとのぼせてしまう可能性があるため、5分を目安に体調を確認しながら入浴してもらうことが大切です。
3. 入浴後
入浴を終えたら、以下の手順で入浴後のケアを行います。
- タオルで髪の毛や身体の水分を拭きとる
- 椅子に座ってもらい、必要に応じて保湿剤や薬を塗布する
- 着替えの介助を行う
- 水分補給をしてもらう
- 体調に問題がないかチェックする
保湿剤の塗布や着替えなどは、椅子に座ってもらった状態で行います。立ったままで行うと、バランスを崩して転倒する恐れがあります。また、何度も立ったり座ったりするのは負担が大きいため、下着やおむつ、ズボンなどは両足を通してまとめて引き上げるのがコツです。
入浴でのぼせたり、ぶつけてアザを作ったりする場合もあるので、最後の体調チェックも忘れずに行ってください。
入浴介助を行う際の留意点

入浴介助での事故を防ぐためには、さまざまな点に気を配る必要があります。特に意識すべき留意点を7つ紹介しますので、事前にチェックしておきましょう。
健康状態に注意する
入浴前には介助を受ける方の健康状態を必ず確認します。健康状態がよくないのに無理に入浴させると、体調が悪化する可能性があります。
血圧は高くないか、熱は出ていないか、脈に異常がないかなどのバイタルチェック、また、ケガがないか、皮膚炎や床ずれなどが生じていないかなども確認します。健康状態の確認後、その結果に応じた方法で入浴介助を行いましょう。
居室と脱衣所の温度差に注意する
居室と脱衣所、浴室の温度差にも注意が必要です。部屋ごとの温度差が大きい場合、ヒートショックを起こす恐れがあります。ヒートショックとは、急激な気温の変化によって心臓や血管の疾患が引き起こされる現象です。
軽度であれば立ち眩みやめまいなどの症状で済みますが、重度になると心筋梗塞や脳梗塞などが引き起こされ、命を落とすケースもあるため注意が必要です。
入浴介助をはじめる前に脱衣所や浴室をヒーターで温めるなどして、できるだけ居室と脱衣所、浴室の温度差が生じないようにしておきましょう。
浴室での転倒に注意する
浴室内での転倒防止の対策も必要です。高齢の方は骨がもろく、転倒すると骨折する恐れがあります。さらにケガが治るのに時間がかかるため、骨折すると長期間の安静が必要となります。動かない期間が長引くと、寝たきりになってしまうケースも少なくありません。
浴室を清掃して水垢などによるぬめりを取っておく、つまずきそうなものを片付けておくなど対策しておきましょう。滑り止めマットを敷くのもおすすめです。
皮膚の状態を注視する
入浴介助の際には、皮膚の状態も確認することが大切です。高齢の方は皮膚が薄く敏感になっていることが多く、ちょっとした摩擦などで皮膚剥離(擦りむき傷)や内出血を起こすことがあります。
入浴時は素肌で過ごすため、普段よりも皮膚剥離や内出血を起こしやすい状態にあります。タオルでゴシゴシと擦り洗いしたり、シャワーチェアーにぶつかったりしないように注意しましょう。
また、もともとのケガやお尻周辺のただれなどがあれば、石鹸やボディソープを使うと刺激を感じる可能性があるため、無理に洗おうとせず、シャワーで軽く流す程度にします。
湯船・タオルの衛生状態に注意する
高齢の方は免疫力が低下しており、感染症にかかりやすい傾向にあります。入浴介助の際は、使用するタオルや湯船などを常に清潔に保ち、感染症を予防しましょう。
同じ浴室で複数の人の入浴介助を行う場合は、タオルを使い回さないようにします。また、シャワーチェアーなどの道具は使用前に洗浄するか、直接肌に触れないようにタオルを敷くなどの対策をしてください。
すでに緑膿菌や感染症などにかかっている方が入浴する場合は、順番を最後にするなど配慮が必要です。
お湯の温度に注意する
湯船やシャワーのお湯の温度に注意しましょう。高齢の方は肌が薄く熱さを感じやすいため、事前に介助者が温度を確認し、入浴中も熱くないか小まめに声をかけて確認します。
複数人の入浴介助を行う場合、最後の方が入浴するときにはお湯の温度が下がってしまうこともあります。入浴中はぬるすぎず熱すぎないよう、常に40℃程度の温度を保てているか確認しながらサポートしてください。
洗い残しに注意する
入浴介助のよくあるトラブルに、「洗い残しによる皮膚炎」があります。石鹸やシャンプーをしっかり流し切れておらず、それが刺激になって皮膚炎を起こしたり水虫を悪化させてしまったりします。
介助する方の関節の拘縮などによっては、洗い残しが生じやすくなるため注意してください。また、指の間や耳の裏、脇、陰部などは、洗い忘れ、洗い残しが発生しやすいので気をつけましょう。
入浴介助の必需品
入浴介助をスムーズに行うために、事前にそろえておきたい道具があります。介助者と介助を受ける方の利便性や安全性を配慮して、準備を進めましょう。
シャワーチェアー
入浴介助を行う際には、介護用のシャワーチェアーが必要です。シャワーチェアーに腰掛ければ、ゆったりと座ったまま髪の毛や身体が洗えるので、介助者も介助を受ける方も足腰に負担がかかりにくくなります。
シャワーチェアーにはロータイプやハイタイプ、背もたれつき、肘掛けつきなどさまざまな種類があります。お尻が滑らないような設計のものもあるので、座りやすいチェアーを探してみましょう。
また、高さ調整ができるタイプは介助者が作業のしやすい高さにできるため、より身体への負担を軽減しやすくなります。
入浴介助用サンダル
入浴介助用サンダルとは、滑りにくい素材で作られているサンダルのことです。多くの場合、清潔を保てるよう丸洗いやアルコール消毒にも対応しています。
入浴介助では、介助を受ける方の転倒に注意するのと同時に、介助者の転倒にも配慮しなくてはなりません。入浴介助用サンダルを履いていれば、浴室でも滑りにくく、また排泄物などを踏むこともなくなるため、介助者の安全確保に必要です。
入浴介助用ウェア
入浴介助の際は介助者も濡れてしまうため、撥水性や速乾性のある入浴介助用ウェアも用意しておきましょう。
撥水性が高い入浴介助用ウェアを着ておけば、入浴介助用エプロンなどを装着する必要がなくなるので、よりスムーズに入浴介助が進められます。さらにスポーツウェアのような動きやすいものであれば、長時間の入浴介助でも身体への負担が軽減できます。
一般的に、入浴介助用エプロンは肌に当たるとひんやりするものが多く、介助を受ける方が不快に感じる場合があります。布製の入浴介助用ウェアは触れたときの冷たさが少ないため、介助を受ける方の不快感を抑えることが可能です。
入浴介助用エプロン
入浴介助用ウェアなど、入浴介助用のユニフォームが準備できない場合は、入浴介助用エプロンを用意しましょう。入浴介助用エプロンとは、防水性または撥水性のあるエプロンで、介助者の水濡れや汚れの付着を防止するのに役立ちます。
先述の通り、入浴介助用エプロンは肌に当たるとひんやりするものがありますが、なかには冷たさを感じる原因となる防水フィルムを裏面に取り付けるなど、介助を受ける方に配慮した製品もあります。
手早く着脱できる被りタイプの入浴介助用エプロンや、すねまでカバーできるロングタイプのエプロンなどいろいろあるので、使いやすいものを探してみましょう。
<参考>
まとめ
入浴介助は身体を清潔に保ち、全身のチェックを行うために欠かせません。スキルや経験がない状態で行うと事故が起こるリスクがあるため、入浴介助を行う場合は正しい手順や注意点を知っておく必要があります。
また、入浴時はリラックスしてもらうことも大切なため、スムーズにサポートできるよう、入浴介助の必需品を準備しておきましょう。


