更新日:2026年8月17日
会社の防災どこまでやれば大丈夫?安全配慮義務の範囲をわかりやすく解説

防災対策に安全配慮義務。やらなきゃとは思うけれど、どこまでやれば大丈夫なのか?総務担当や経営を担う立場になると、一度はこんな不安が頭をよぎるのではないでしょうか。実は会社の防災を考える上で欠かせないのが、安全配慮義務という考え方です。この記事では安全配慮義務とは何かをわかりやすく紐解きながら、地震・台風・水害・雪・火災・暑さといった災害の種類ごとに、どこまで備えておけばよいのかをご紹介します
そもそも安全配慮義務とは?
安全配慮義務とは、簡単にいえば「会社は、働く人の命や身体の安全を守るように配慮しなければならない」という決まりのことです。労働契約法第5条に、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています。義務と聞くと、なんだか難しくて身構えてしまうかもしれません。けれども、その中身はとてもシンプルで従業員を危険な目にあわせないよう、会社として当たり前の配慮をしましょうということです。
そしてこの配慮の中には、災害への備えも含まれると考えられています。防災備蓄や避難計画そのものを直接命じる法律があるわけではありませんが、災害が起きたときに従業員が安全でいられるよう備えておくことは、安全配慮義務を果たす上でとても大切な取り組みといえるでしょう。防災は法律で決まっているからやるというより、大切な従業員を守るために自然と必要になるものととらえると、すっと腑に落ちるかもしれません。
<参照>
e-GOV 法令検索「労働契約法」
防災における安全配慮義務はどこまで?

配慮が大切なのはわかったけれど、具体的にどこまでやればいいのか?基本の考え方から見ていきましょう。
基本の考え方:予見できる危険に、できる備えを
安全配慮義務の範囲を考えるとき、ヒントになるのが「予見できる危険に、できる範囲の備えをする」という視点です。たとえば、自社のあるエリアが水害の起こりやすい場所だと、ハザードマップなどから予めわかっていたとします。それなのに何の対策もしていなかった場合、「予見できたのに備えなかった」と見なされてしまう可能性があります。もちろん、まったく想定できないような事態にまであらゆる対策を求められるわけではありません。
つまり大切なのは「自社にはどんなリスクがあるのか」をまず把握し、その中でできる備えを一つずつ整えていくことです。ハザードマップの確認や、過去に自社の周辺で起きた災害を振り返ることから始めてみるとよいでしょう。すべてを完璧にする必要はありません。予見できるものに、できることを——この物差しを持っておくと、どこまでやればよいかの見当がつけやすくなります。
怠るとどうなる?会社が問われる責任
知っておきたい事項として、安全への配慮を怠りその結果として従業員に被害が生じてしまった場合、会社が民事上の損害賠償責任を問われる可能性がある、という点が挙げられます。日頃からきちんと備えておくことが、結果的に従業員を守り、会社を守ることにもつながる——ととらえて、できることから整えていきましょう。
一口に防災といっても種類はさまざま|災害別に見る備えのポイント
防災と聞くと、多くの方がまず地震を思い浮かべるのではないでしょうか。もちろん地震への備えは欠かせませんが、会社が向き合うべき災害は実はもっといろいろあります。ここでは災害の種類ごとに押さえておきたい備えのポイントをご紹介しましょう。
地震:まずは倒れない・落ちてこない環境から
地震対策の基本は、なんといってもものが倒れてこない・落ちてこない環境づくりです。キャビネットや什器を固定金具や耐震ジェルマットで固定するだけでも、けがのリスクをぐっと減らせます。あわせて、交通機関が止まって従業員が帰宅できなくなる帰宅困難者への備えも大切です。水や食料、簡易トイレなどを最低3日分そろえておくと安心でしょう。何をどれだけそろえればよいかはこちらでくわしくご紹介しています。避難経路を塞いでしまう場所にものを置かないよう、日頃から気を配っておくこともポイントです。
台風・ゲリラ豪雨(水害):早めの判断が命を守る
台風やゲリラ豪雨による水害は、地震と異なりある程度、事前に予測できるのが特徴です。だからこそ、早めの判断がとても重要になります。台風の接近が予想されるときは、進路や警報の情報をこまめに確認し、状況によっては早めの帰宅を促したり翌日の出社を見合わせたりする判断が求められます。無理をして出社させない・帰宅させないことも、立派な安全配慮です。浸水の恐れがある立地であれば、土のうや止水板を用意しておくとよいでしょう。
<参考>
企業に必要な台風対策とは?考えられるリスクやあると便利なアイテム
水害対策の基本!オフィス・事務所で必要な備えとは
雪害:交通マヒと転倒・凍結への備え
雪の被害は、雪国だけの話ではありません。ふだん雪の少ない地域ほどいざ降ったときに交通がマヒしたり、路面の凍結で転倒事故が起きたりしやすいものです。通勤時の転倒によるけがも状況によっては安全配慮の範囲に関わってきます。大雪が予想されるときは、無理な出社を求めない判断が大切でしょう。あわせて、オフィスや店舗のエントランスの凍結防止剤(融雪剤)や、すべりにくいマットなどを用意しておくと、来客や従業員の転倒を防ぐのに役立ちます。
火災:日常に最も身近なリスク
大きな自然災害に目が向きがちですが、実は日常でもっとも身近な災害が火災です。消火器を使いやすい場所に配置し避難経路を塞がないようにしておくこと、そして消防法に基づく防火管理をきちんと行うことが基本です。いざというときに慌てないよう、避難経路や消火器の場所を従業員みんなで共有し、避難訓練を定期的に行っておくと安心です。火災は、日頃の小さな心がけが被害を大きく左右します。
暑さ対策(熱中症):2025年から義務に
意外に思われるかもしれませんが、近年特に注目されているのが暑さ対策です。2025年6月1日から、職場の熱中症対策が法律上の義務になりました。改正された労働安全衛生規則により、一定の暑さの基準(WBGT値)を超える環境で作業を行う場合、事業者には対策が義務づけられています。
具体的には熱中症の自覚症状がある人や、その恐れのある人を見つけた場合に報告できる体制を整えることや、重症化を防ぐための手順をあらかじめ決めておくことなどが求められます。これは屋外作業に限った話ではなく、空調の効きにくい場所や店舗のバックヤードなども対象になり得る点に注意が必要です。対策としては、スポットクーラーや扇風機で環境を整えること、経口補水液や塩分補給用のタブレットを常備しておくこと、暑さ指数を測るWBGT計を設置することなどが挙げられます。夏場の備えとして、あらためて見直しておくとよいでしょう。
<参照>
厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」
接客業・店舗は特に注意|お客様への配慮も忘れずに

ここまでは主に従業員への配慮についてお話ししてきましたが、店舗や飲食店、サービス業といった対人接客業の場合、もう一歩踏み込んで考えておきたいことがあります。それは、お客様への配慮です。施設を管理する立場にある事業者は、そこを利用するお客様の安全についても配慮が求められると考えられています。従業員だけを守れば十分ではありません。
たとえば地震や火災が起きたときに、お客様をどう安全に誘導するか。その手順をあらかじめ決めておくことは、とても大切です。また来店客の分まで見込んだ救護用品や備蓄を用意しておくこと、車いすやベビーカーの方でも安全に避難できる動線を確保しておくことなども、想定しておきたいポイントでしょう。多くの人が出入りする場所だからこそ「もしものとき、この場にいる全員をどう守るか」という視点が欠かせません。
業種や施設ごとに必要な備えは、こちらを参考にしてみてください。
まず何から始める?無理なくできる備えのステップ
おすすめの進め方は、まずハード面から整えることです。什器の転倒防止、消火器の配置、避難経路の確保といった、環境そのものを安全にする対策です。これらは一度整えておけば、長く効果が続きます。次に取り組みたいのがソフト面です。災害時の連絡体制を決めておく、避難や対応の手順をまとめたマニュアルを用意する、定期的に避難訓練を行う、そして水や食料などを備蓄しておくなど。こうした運用面の備えを、少しずつ充実させていきましょう。大切なのは、完璧を目指して身構えることよりも、無理なく続けていくことです。「できることから一歩ずつ」を合言葉に、自社のペースで整えていきましょう。会社の規模によって、どこまでやるべきかの目安は変わってきます。
よくある質問(FAQ)

Q1. 中小企業や零細企業でも、安全配慮義務はありますか?
A. はい、会社の規模にかかわらず、従業員を雇っているすべての事業者に安全配慮義務はあります。うちは小さい会社だから関係ないということはありません。ただし求められる備えの内容は、規模や業種、立地によって現実的な範囲で判断されます。まずは自社にとって予見できるリスクを把握し、できることから始めていくとよいでしょう。
Q2. 防災マニュアルは、必ず作らないといけませんか?
A. 防災マニュアルの作成そのものは、業種や施設によって扱いが異なります。一律にすべての企業へ課されているわけではありませんが、いざというときに従業員が迷わず動けるよう、対応手順や連絡体制をまとめておくことは安全配慮の観点からとてもおすすめです。自社にどのようなルールが当てはまるか気になる場合は、所在地の自治体や所轄の窓口に確認しておくと安心でしょう。まずは簡単なものからでも、用意しておくことをおすすめします。
Q3. 在宅勤務・テレワーク中の従業員にも、安全配慮義務は及びますか?
A. はい、働く場所が自宅であっても、業務に関わる範囲では安全配慮義務が及ぶと考えられています。たとえば災害時の連絡手段を決めておく、安否確認の仕組みを整えておくといった配慮が大切です。オフィス勤務の従業員だけでなく、在宅で働く方の安全にもあわせて目を向けておきましょう。
まとめ
会社の防災を考えるうえで土台となるのが、従業員の安全に配慮するという安全配慮義務の考え方です。防災と一口にいっても、地震・台風・水害・雪・火災・暑さと、備えるべき災害はさまざま。しかも、対人接客業ではお客様への配慮も欠かせません。それぞれのリスクに応じて、無理のない範囲で備えを整えていくことが大切です。予見できる危険に、できる備えを。この考え方を物差しにすれば、自社がどこまでやればよいのかの見当がやすくなります。義務を最低ラインととらえつつ、完璧を求めすぎず、できるところから一歩ずつ整えていきましょう。
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