更新日:2024年11月28日
衛生管理者とは? 仕事内容と役割、資格試験について解説

企業や事業所の規模によっては、衛生管理者を選任しなくてはなりません。誰でもすぐになれるわけではなく、試験に合格して衛生管理者の国家資格を取得する必要があります。本記事では、衛生管理者の概要や仕事内容、役割などのほか、職場の衛生管理や環境整備に役立つアイテムを紹介します。
衛生管理者とは? 職場の健康と安全を支える役割
衛生管理者とは、従業員が安全かつ安心して働ける職場環境の構築を担うための国家資格を保持する者です。「労働安全衛生法」によって定められている国家資格であり、同法に基づいて従業員の健康障害および労働災害の発生を防ぐ役割を担います。
衛生管理者は従業員の安全を守る専門家であり、50名以上の従業員を常時雇用している企業は必ず選任しなくてはなりません。これは同法によって定められています。
実際の業務内容としては、作業環境の安全性確認や従業員の健康状態のチェック・処置、作業条件や施設等の衛生状況改善などが挙げられます。なお、こうした衛生管理業務は企業の総務部、人事部に属する従業員が兼任しているケースがほとんどです。
安全管理者との違い
安全管理者とは、業務全般の安全を守る者です。従業員が安全に作業するための教育や訓練の実施、作業場の巡視や危険への対策、危険防止設備や器具の定期点検などが具体的な実務です。
建設業や運送業、製造業、通信業など一定の業種において、常時50人以上の従業員を雇用している企業は、安全管理者を選任しなくてはならないと法律で義務づけられています。安全管理者になるためには、厚生労働大臣が定める研修を修了し、なおかつ一定の条件をクリアする必要があります。
衛生管理者との違いは、実務を担当する領域です。衛生管理者が、従業員の「衛生(健康)」を管理するのに対し、安全管理者は職場の「安全」を管理します。
衛生管理者の主な仕事内容・職務

衛生管理者は、従業員の健康管理が主な業務であり、その一環として衛生教育や健康相談などを実施します。また、作業環境や安全設備を管理し、記録の整備や方針の策定にも携わります。
健康管理と労働者サポート
従業員が健やかに働いているかどうかを管理するのが衛生管理者の業務です。例えば、職場で具合が悪そうな人を発見した際には速やかに声をかけ、休憩をとらせたり、早退を提案したりします。また、もし従業員が怪我をしているのなら、その状況にあわせて適切な処置を行います。
また、衛生教育や健康相談を実施するのも衛生管理者の役割です。健康相談を通じて従業員の健康状態を把握し、なおかつ適切な衛生教育によって従業員が安全かつ衛生的に作業できるよう職場環境の見直しや改善を進めます。さらに、従業員の健康状態を把握した上で、統計の作成や管理を行うのも重要な業務です。
作業環境と安全設備の管理
作業環境によっては、従業員が健康を損ねてしまうかもしれません。こうした事態を回避すべく、衛生管理者は作業環境や安全設備の管理を行います。
例えば、職場環境の温度や湿度に関する調査です。職場の温度があまりにも高すぎる場合、従業員が熱中症などに見舞われるおそれがあります。衛生管理者は巡視によって職場の温度や湿度が適切な範囲内に収まっているかどうかをチェックし、必要に応じて処置を行います。
その他、労働衛生保護具や救急用具の点検整備も大切な業務です。救急箱や担架、AEDなどが問題なく使用できるかを確認し、不具合があれば改善します。また、作業中にヘルメットを着用しているか、高所作業の際に安全帯を適切に使用しているかなどを調査し、危険がないかを確認するほか、職場の照明が暗すぎないか、医療廃棄物の処理が適切に行われているかをチェックするのも衛生管理者の役目です。
さらに、このような安全面への配慮を継続して行っているように、同一作業場所や関連会社間で協力・連携が取れるように体制を構築する役割もあります。
記録の整備と方針策定
衛生日誌などに情報を記録するのも衛生管理者の実務です。衛生日誌へ定期的に記録を行うことで、職場環境を正確に把握できます。
そして、安全衛生方針を立案するのも重要な業務のひとつです。立案した安全衛生方針に則り、今後の具体的な行動や対策などを練っていきます。
また、作業環境を定期的に調査し、必要に応じた健康管理措置や安全対策も行います。衛生管理者は、労働安全衛生規則によって「週に1回以上」は職場を巡視しなくてはなりません。従業員がルールを守って働いているか、危険につながるものはないか、緊急時の避難経路が確保されているかなどをチェックし、必要に応じて対策を講じます。
衛生管理者の選任義務
労働安全衛生法で「常時50人以上の従業員を雇用している事業場では、衛生管理者を選任しなくてはならない」と定められています。後述しますが、事業場で業務に取り組む従業員の数によって選任すべき衛生管理者の人数が変わる点に注意が必要です。
なお、衛生管理者は支店や支社、営業所、店舗ごとに選任しなくてはなりません。さらに衛生管理者は専属でなければならないため、本社と支店を1人の衛生管理者が兼任するといったことも不可能です。
衛生管理者の選任は法律で義務づけられているため、これを回避することはできません。選任義務があるにもかかわらず衛生管理者を置かなかった場合、罰則の対象となり「50万円以下の罰金」が科される可能性があります。
衛生管理者の選任人数
衛生管理者を選任しなくてはならないのは、「50人以上の従業員を常時雇用している事業者」です。選任する数は事業所の規模によって異なり、従業員の人数が多くなればなるほど衛生管理者も増やさなくてはなりません。事業所規模ごとの選任人数は次の通りです。
| 事業場の労働者人数 | 衛生管理者の選任数 |
|---|---|
| 50人以上~200人以下 | 1人以上 |
| 200人超~500人以下 | 2人以上 |
| 500人超~1,000人以下 | 3人以上 |
| 1,000人超~2,000人以下 | 4人以上 |
| 2,000人超~3,000人以下 | 5人以上 |
| 3,000人超 | 6人以上 |
なお、事業場の衛生管理者は原則として専属ですが、例外もあります。2人以上の衛生管理者を選任するケースでは、そのなかに労働衛生コンサルタントがいれば1人は兼任でも可能です。
衛生管理者の資格の種類
衛生管理者は誰でも担えるわけではなく、資格が必須です。資格には、第一種衛生管理者と第二種衛生管理者、衛生工学衛生管理者の3つがあります。
第一種と第二種衛生管理者の違いは、対応できる業種です。第一種は、製造業や建設業、医療業、鉱業など全ての業種に対応でき、放射能や化学物質を扱う有害業務も扱えます。一方、二種は金融や情報通信業、小売業、卸売業、保険業などに対応でき、有害業務は扱えません。
衛生工学衛生管理者は、有害ガスなどを扱う作業場の安全確保や管理を行う資格者です。第一種衛生管理者と同様に有害業務を扱え、全ての業種に対応できます。
衛生管理者の受験資格
衛生管理者の試験を受けるには、受験資格を満たす必要があります。受験資格は次の通りです。
- 大学や短大、高等専門学校を卒業したのち、労働衛生に関する1年以上の実務経験がある
- 高等学校を卒業後、労働衛生の実務を3年以上経験している
- 労働衛生の実務経験が10年以上ある
受験するには、上記のうちいずれかを満たさなくてはなりません。また、実務経験は受験希望者による自己申告ではなく、実務経験証明書を提出する必要があります。証明書は受験希望者自身が作成したものではなく、所属している企業の代表や総務部長などの職名のもと作成します。
また、受験資格を満たす実務と認められる業務も定められています。例えば、作業環境における衛生調査業務や衛生教育の企画・実施業務、救急用具や労働衛生保護具の整備業務などが該当します。
衛生管理者の試験内容と受験方法、合格率
第一種と第二種衛生管理者の試験科目は、いずれも「労働衛生」「係法令」「労働生理」です。異なる点は、第一種の労働衛生と関係法令では有害業務に関わる問題が出題されますが、第二種には含まれないことです。
試験は毎月実施されているため、受験しやすい資格です。北海道や東北、関東、中部、近畿、中国四国、九州の各センターで実施されており、詳しい受験地や試験日などの情報は安全衛生技術試験協会の公式サイトで確認できます。
なお、安全衛生技術試験協会が公表している統計データによると、令和5年度における衛生管理者の合格率は、第一種が46.0%、第二種が49.6%となっています。
衛生工学衛生管理者の資格を取得するには、まず第一種衛生管理者に合格する必要があり、加えて厚生労働大臣が認定した講習を受講しなければなりません。その後、修了試験に合格すると資格取得となります。講習は2~4日など複数日にまたがって行われることがほとんどです。
参照:公益財団法人安全衛生技術試験協会「労働安全衛生法・作業環境測定法に基づく試験」
職場の主な衛生管理・環境整備

どの職場においても衛生管理や環境整備を進めようと、さまざまな備品を導入しているでしょう。注意点としては、労働衛生基準に則った備品を導入しておいた方がよいことです。
衛生基準とは、職場の照度やトイレ、休憩設備、温度などの基準です。例えば、オフィス内において、一般的な事務作業なら照度基準が300ルクス以上と定められているため、これを満たせるよう照明器具の選定、設置を行わねばなりません。
従業員の健康と安全を達成できる下記のオフィス用品について取り上げます。環境を整える上で参考にしてみてください。
- 蛍光灯
- トイレ用クリーナー・洗剤
- 更衣室ロッカー
- 救急箱
- デジタル温湿度計
明るく快適なオフィス空間を: 目に優しい蛍光灯
オフィス空間が暗すぎると、目が疲労しやすくなるばかりか、従業員の視力低下にもつながりかねません。また、逆に明るすぎても目に悪影響を与えるおそれがあるため、適切な明るさを保ちながらも目に優しい照明器具を導入する必要があります。
職場の照度基準は、一般的な事務作業なら300ルクス以上と定められています。また適切な明るさと同時に色温度にも留意する必要があります。目に優しい蛍光灯を導入すれば、従業員は快適なオフィス環境で業務に取り組め、業務効率の向上も期待できます。
いつも清潔に!衛生的な環境を保つ: トイレ用クリーナー・洗剤
労働安全衛生規則ではトイレに関して「定期的な清掃によって衛生的に保たなくてはならない」と定めています。トイレの使い方や清掃ルールなどを確立しておきましょう。
トイレが常に汚れている、悪臭が漂っているといった状態では、従業員のモチベーションも上がりません。モチベーションの低下は業務効率や生産性にも直結するおそれがあるため、常に清潔な状態に保つことが大切です。
「清潔さを保てるのか」という視点でクリーナーや洗剤を選ぶことが大切です。トイレ用クリーナーや洗剤はさまざまな製品が市販されていますが、強力な洗浄力で汚れやニオイを落とせる製品を選ぶと、トイレ掃除の手間も軽減します。
快適な着替え環境を: 更衣室ロッカー
作業で従業員の服が汚れるようなら、着替えられるよう更衣室を設置する必要があります。快適に使用できる空間の構築が重要であるのはもちろんのこと、安心して利用できるかも大切なポイントです。
「更衣スペースはあっても、個人の衣服や荷物を保管するスペースがない」といったケースも少なくありません。従業員側は安心して利用できず、盗難などトラブルの発生も招く可能性が考えられます。
おすすめなのは、更衣室ロッカーの導入です。鍵付きのロッカーを導入すれば、従業員は衣服や私物を安全に保管でき、プライバシー保護にもつながります。高い収納力を確保しつつ、省スペースを実現した製品などもあるので、更衣室の広さにあわせて選定してみてください。
万が一に備えて: 充実した救急箱
従業員が業務中に怪我したり、体調が悪くなったりすることは、珍しくありません。このようなとき、スムーズに対応できるように備品をそろえておきましょう。切り傷や擦り傷などの怪我に使える絆創膏や消毒液をはじめ、頭痛や胃痛などに対応できるよう常備薬も準備しておくと安心です。
なお、備えるべき救急用具の品目は、法律および労働衛生基準では定められていません。そのため、各企業で検討しつつ、どのような用具をそろえるべきか決めた方がよいです。
絆創膏や包帯、消毒液などが最初からセットになった救急箱もあります。同時に、地震や火災など災害時を想定して、オフィス向けの防災グッズを備えておく必要性についてもぜひ検討・準備してみてください。
オフィス環境の「見える化」に: デジタル温湿度計
オフィスの温度や湿度が従業員に与える影響は決して小さくありません。温度や湿度が高すぎる、もしくは低すぎると業務に集中できないばかりか、健康を損ねるおそれもあります。
いつでも室温や湿度をチェックできるよう、温湿度計の導入を検討しましょう。デジタル温湿度計なら、画面に温度や湿度が数字で表示されるため一目で室内の状況を把握できます。環境の変化を可視化できることから、熱中対策や衛生対策にも有効です。
まとめ
衛生管理者は国家資格で、従業員が健康かつ安全に働けるよう職場環境の見直しや改善を行う役割を担います。選任義務がある事業所なのに選任していないと、罰則の対象にもなるため注意が必要です。職場の衛生管理や環境整備を進める際には、衛生基準に配慮しながら蛍光灯やロッカーといった備品の選定を進めましょう。


