更新日:2024年12月26日
ウイルスと細菌の違いとは?手指の消毒で確実に対策するためには

人間が感染症にかかる病原微生物として、細菌とウイルスが挙げられます。この2つはしばしば混同されがちですが、異なる性質を持つものであり、大きさや増殖する方法、薬剤なども違ってきます。本記事では、細菌とウイルスの違いを詳しく解説し、できるだけ感染症にかからないようにする方法もご紹介します。
ウイルスと細菌の違い

ウイルスと細菌はしばしば混同されがちですが、全く別のものです。簡単に言ってしまえば、細菌は単独で生存・増殖する生物ですが、ウイルスは単独では増殖できず、ほかの生物の細胞の中に入って増殖します。大きさや増え方、効果的な薬剤の種類など、それぞれの違いを以下で詳しく解説します。
| ウイルス | 細菌 | |
|---|---|---|
| 主な病気の例 | 新型コロナ インフルエンザ 風邪 | 大腸菌感染症 肺炎 |
| 治療法 | 治療薬が限られる | 抗生物質などがある |
| 大きさ | 約0.1㎛ | 約1㎛ |
| 増え方 | ほかの生物の細胞の中で増える | 単独で増える |
ウイルスとは?
ウイルスは、私たちが普段目にすることのできない小さな微生物の一種です。しかし、生物の定義として、「外界と膜で仕切られている」「代謝ができる」「自己複製できる」というものがありますが、ウイルスは「自己複製できる」という定義に当てはまりません。
自分自身で増殖はできず、ほかの生物の細胞の中に入り込んで初めて増殖できます。このことから、生物とは言えないとする専門家もいます。 構造的には、遺伝子とそれを包むタンパク質の殻からできており、非常にシンプルな構造をしています。
ウイルスの中には、HPV(ヒトパピローマウイルス)のようにガンを誘発するものも存在します。一般的によく知られるインフルエンザウイルスやコロナウイルスなどは増殖力が強いため、感染すると発熱や倦怠感などの症状が出ます。
また、ウイルスは非常に早く変異するため、新しい種類のウイルスが次々と生まれ、感染症の予防が難しいという特徴もあります。ウイルスは、生物と無生物の境目にあるような不思議な存在で、科学者たちを長年悩ませてきた謎の多い存在と言えます。
ウイルスの大きさ
ウイルスの大きさや形はさまざまです。多くのウイルスに共通していることは、光学顕微鏡では見えないほど小さく、電子顕微鏡でようやくその姿を捉えられる点です。
一般的な大きさは、10~300ナノメートルほどとされています(1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1)。しかし、中には巨大ウイルスと呼ばれる、光学顕微鏡でも観察できるほど大きなものも存在します。例えば、永久凍土から発見されたピソウイルスは、長径が2,500ナノメートルにも達し、その大きさは一般的なウイルスの数十倍以上です。
また、ウイルスの形状もさまざまです。球形、棒状、あるいは複雑な形状のものも存在します。新型コロナウイルスは球形をしており、表面にスパイクと呼ばれる突起状のタンパク質を持っています。これらの特徴は、ウイルスが感染する宿主(しゅくしゅ)や、感染の仕方に深く関わっていると考えられています。
ウイルスの増え方
ウイルスの増殖方法には特徴があります。前述のように単独での増殖はできないため、人間などの宿主の細胞を利用します。多くのウイルスは、ゲノムとしてRNAかDNAのどちらかを持ち、それにより自己複製していきます。
増殖の方法は、まず表面のタンパク質により宿主細胞に取りつき、侵入します。そして、自らの外殻を壊し、宿主細胞内へRNAあるいはDNAを放ち、宿主細胞にあるタンパク質を利用して、自らの遺伝子を再生していきます。
このとき、ウイルス自体は検出できない状態になっており、その間に細胞内で再び大量にコピーされて、宿主細胞から放出されます。利用された宿主細胞は、自らのタンパク質を作れなくなり、死滅してしまいます。
このサイクルが大量の細胞で行われるため、コピーミスが発生して、ウイルスが変異してしまうことにつながるとされています。
ウイルスの薬
風邪のときによく出される抗菌剤は、細菌に対するものです。そのため、ウイルスには効果がありません。
しかし、ウイルスの種類によっては、「抗ウイルス薬」という薬剤があります。ウイルスは人間の細胞内に侵入し、細胞の機能を利用して自分自身をコピーし増殖します。そのプロセスを阻害することで増殖を抑えるのが、抗ウイルス薬の仕組みです。
ただし残念ながら、抗ウイルス薬の開発は困難な場合が多いです。現在、インフルエンザ、コロナウイルス、HIVなど、一部のウイルス感染症に対しては抗ウイルス薬が開発されていますが、多くのウイルス感染症、特に風邪や食中毒の原因となるウイルスに対しては有効な治療薬がありません。
これは、ウイルスの構造がシンプルで、薬が作用する「標的」となる部分が限られていることと、ウイルスが人間の細胞を利用して増殖するため、ウイルスだけを攻撃するのが難しく、同時に人間の細胞を傷つけてしまう可能性が高いということが主な原因です。そのため、ウイルス感染症は発症を予防するワクチンに頼ることが多いですが、ワクチン開発にも安全性や有効性の確保など、さまざまな課題があります。
細菌とは?
細菌は、微生物の一種です。人間の目では見ることができない大きさで、1つの細胞からなるシンプルな構造をしています。DNAやRNA、タンパク質が存在する細胞核を持たない原核生物で、構造的には動植物とは違います。 また細菌はウイルスとも違い、栄養さえあれば、核酸と呼ばれる部分の遺伝情報を使って自ら増殖でき、多様な状況下で生きることが可能です。
細菌というと悪いイメージを持たれるかもしれませんが、乳酸菌や大腸菌など、人間の身体にいて、体調を整えてくれる有益な種類のものもあります。一方で、食中毒や感染症などの病気を引き起こす病原菌も多く、人類にはさまざまな細菌と戦ってきた歴史があります。
細菌の大きさ
細菌は、人の目では見ることができません。種類によって違いますが、大きさの平均は1マイクロメートル(1000分の1ミリメートル)程度です。髪の毛の太さが50~100マイクロメートル程度なので、いかに小さいか想像に難くないでしょう。 光学顕微鏡を使うことで細菌を観察できますが、より細部を観察するためには電子顕微鏡が必要になります。
細菌の増え方
ウイルスでは、前述のように宿主細胞の内部で多数個に増殖します。一方、細菌の増殖は1個が2個、2個が4個と、倍になるように増えていきます。一般的な大腸菌を例に取ってみると、栄養がある環境で人体程度の温度下では、20分で2倍になります。1時間では8倍、10時間になると10億倍という驚くべき数になります。
細菌は増殖をすると、さまざまなかたちで人体に影響を及ぼします。筋肉などに影響が出る破傷風を引き起こす破傷風菌や、重篤な食中毒状態になる黄色ブドウ球菌などは、人体に有害な化学物質を出す種類です。 また、人体が持つ防御機構を妨げる細菌も存在します。
細菌の薬
細菌による感染症は、はるか昔から人類の敵として存在してきました。しかし、「微生物が体内に入り込んで病気になる」という認識はなく、初めてそれが証明されたのは19世紀後半、ノーベル医学・生理学賞を受賞した、ドイツの医師コッホによる研究でした。
その後、1940年代にはフレミングが発見した、人類史上初めての抗菌薬「ペニシリン」が実用化され、細菌細胞を標的とする薬の歴史が幕を開けます。
現在では非常に多くの抗菌剤が開発されており、感染症の原因菌により使い分けられています。いずれの薬も細菌を殺したり、増殖を抑えたりすることで、人間の免疫が働きやすくする効果があります。
ただ、近年問題になっているのは、抗菌薬に耐性を持つ細菌の出現です。「多剤耐性」という、多くの薬が効かない細菌も確認されています。 耐性菌の出現を防ぐには、処方された薬の用量や服用期間を必ず守ることが重要です。
細菌とウイルスはどちらが怖い?
細菌とウイルスの感染症は、どちらも重篤な症状が出る場合があります。細菌では、破傷風を引き起こす破傷風菌や、致死率が高く14世紀に大流行したペスト菌、胃がんの原因と考えられているヘリコバクター・ピロリ菌などが挙げられます。
ウイルスには、致死率の高いエボラウイルスや狂犬病ウイルス、免疫不全を引き起こすHIVなどがあります。 このほかにも、体調が悪かったり免疫が弱っていたりすると、細菌・ウイルスとも内臓にさまざまな症状が出ることがあります。
どちらが恐ろしいとは一概に言えませんが、ウイルスの場合、抗ウイルス剤の種類が少ないという懸念があります。 ただ、どちらも身体がつらくなるのは確かですので、感染しないように予防を徹底することが重要です。
ウイルス・細菌の感染が成立する要因と予防方法

ウイルスでも細菌でも、感染症には次のように3つの要因があります。
- 病原体(感染源)
- 感染経路
- 感受性宿主
感染症を予防するためには、この3つの要因を取り除くことが必要です。以下では、その方法を解説していきます。
対策1.病原体(感染源)を排除する
第一に、病原体を排除することで感染の予防になります。細菌やウイルスなどを含んでいるものを感染源といい、主に感染者の嘔吐物や排泄物、血液、体液、使用した衣服やタオルなどが挙げられます。
これらの感染源に対しては、処理をするときに必ず手袋とマスクを着用することが重要です。身体のほかの部分に付着することにも注意が必要です。使用した衣服やタオルなどは体液などが付着している場合、消毒をしてください。また、空気清浄機の活用や室内の換気も大切です。
もし、体調に異変を感じたら、すぐに医療機関にかかることも感染拡大の防止につながります。早めの治療と休養が大切です。
対策2.感染経路を遮断する
感染経路には、感染者に直接触れることで感染する「接触感染」、咳やくしゃみなどの飛沫にさらされることで感染する「飛沫感染」、空気中に放出された病原体により感染する「空気感染」などがあります。
感染経路は病原体の性質によって異なるため、それぞれの対策が必要となりますが、職場や学校で流行する病原体の場合、どの感染経路も考えられます。
基本的な対策としては、マスクの着用があります。着用時には、しっかりと顎から鼻までを覆うようにしてください。もし、マスクがない場合には、咳やくしゃみをするときにほかの人から離れるなど、咳エチケットを意識しましょう。
うがい、手洗いも重要です。後述する「正しく手指の消毒をするためには?」を参考にしてください。
対策3.宿主の抵抗力を高める
宿主とは、感染の可能性がある人のことです。つまり、感染しないように免疫を高めておくことが重要な対策となります。
普段から疲労を溜めないようにして、十分な睡眠と栄養補給、休養を取るようにしてください。ワクチンのある感染症であれば接種も検討しましょう。
また、感染症の流行しやすい冬場では、水分補給を意識することも大切です。しっかりと水分を取ることも感染予防になります。 このほか、ストレスも免疫機能の低下となりますので、ストレスをためこまないようにしてください。
正しく手指の消毒をするためには?
前述したように、手指の消毒・手洗いは、細菌やウイルスの感染予防のために有効です。正しいタイミングと方法で行う必要があります。
タイミングとしては、外出から帰ったときや、室内では感染症にかかっている人が触れた場所に触れたときなどが挙げられます。 手を洗える環境のときには、石鹸を使い、手のひらだけでなく指の間や爪の先まで15秒程度しっかりと洗い、流水でよく流してください。
また、消毒液の場合には、消毒液を手のひらに取り、指先や手のひらへしっかり広げていきます。指の間や手の甲、手首にもまんべんなくと伸ばしていってください。
まとめ
ウイルスと細菌では性質が大きく異なります。しかし、感染対策では共通していることが多く、マスクの着用や正しい手洗いと手指の消毒、換気などが予防につながります。また、ワクチンを接種し、疲労を溜めないよう心がけて抵抗力をつけておくことも重要です。

監修者
武井 智昭氏
小児科医・内科医・アレルギー科医。2002年、慶応義塾大学医学部卒業。多くの病院・クリニックで小児科医・内科としての経験を積み、現在は高座渋谷つばさクリニック院長を務める。感染症・アレルギー疾患、呼吸器疾患、予防医学などを得意とし、0歳から100歳まで「1世紀を診療する医師」として地域医療に貢献している。


