更新日:2026年4月13日
熱中症対策が義務化へ|労働安全衛生規則の改正ポイントと企業の実務対策

近年の猛暑や高温多湿の影響で、職場における熱中症のリスクが増加しています。このような背景を受け、2025年に労働安全衛生規則が改正され、熱中症対策が義務化されました。
本記事では、改正内容の概要とポイントを詳しく解説し、企業が実務で取り組むべき対応策や職場環境の整備方法についても紹介します。
2025年改正 労働安全衛生規則の概要と主な改正ポイント

労働安全衛生規則が改正され、2025年6月1日に施行されました。ここではまず、改正の趣旨と背景、主な改正内容を解説します。
労働安全衛生規則は、労働者が安全で健康かつ快適に作業できるような職場づくりを実現するために、厚生労働省が発行した省令です。規則に違反すると、罰金や懲役といった罰則の対象となるおそれがあります。
罰則の対象とならないように、労働者を雇っている事業者は、労働安全衛生規則の改正ポイントをしっかりと確認しましょう。
改正の趣旨と背景
2025年の労働安全衛生規則の改正のポイントは、熱中症対策の義務化です。
近年の気温上昇や猛暑日の増加により、熱中症による死亡災害が増加しています。こうした状況を受け、屋内外を問わず労働者が安全に作業できるよう、2025年の改正により事業者に求められる熱中症予防措置が強化されました。
具体的な予防対策としては、作業環境に応じた温湿度管理、作業負荷や作業時間の調整、適切な休憩の確保、健康管理の制度化などが挙げられています。
2025年施行の主な改正内容とは
熱中症は初期症状の放置や対策が遅れたりすると、症状が重篤化し、場合によっては死亡することがあります。そのため、2025年の改正では、重症化防止のための対策が盛り込まれました。
具体的な内容は、以下のとおりです。
- WBGT(暑さ指数)による暑熱リスク評価の実施
- 温度や湿度といった作業環境の管理の徹底
- 作業負荷に応じた休憩確保や作業時間の調整
- 飲料水や塩分の確保と摂取の指導
- 熱中症発生時の救急体制整備
熱中症の重篤化を防ぐには、熱中症が発生しにくい体制を整備するとともに、万が一発生した場合の対応手順を明確にし、対策内容を関係者に周知しておくことが重要です。
なお、事業者が熱中症対策の義務を怠った場合、労働基準監督署による指導や改善命令の対象となる可能性があります。場合によっては、労働安全衛生法に基づく罰則が科されることもあるため、注意が必要です。
<参照>
厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」
企業が取るべき実務対応

2025年の労働安全衛生規則の改正により、企業には熱中症対策の義務が明確化されました。
ここでは、改正内容を踏まえて企業が実際に取り組むべき具体的な実務対応について整理します。
温湿度管理や作業計画の見直し、休憩・水分補給体制の強化など、職場で実践できるポイントを順を追って解説します。
就業規則・社内規程の見直し
熱中症対策の義務を実行するには、改正内容を反映した就業規則の改定や、労使協定の速やかな更新が必要です。
規則や規定を更新した後は、ミーティングや研修を通じて変更点の周知を行いましょう。ただし、ミーティングや研修のみでは、欠席者に共有が行き渡らない可能性があります。また、内容によっては、口頭説明だけでは、十分に伝わらないケースもあるでしょう。
そのため、ミーティングや研修に加えて電子メールやイントラネットを活用した文面による通知を併用すると、効果的です。文書に残すことで、参加できなかった従業員にも情報が行き渡り、後から内容を確認することもできます。
さらに新たな規則や規定については、従業員がいつでも確認できるよう、休憩室や会議室などの目につきやすい場所に掲示することも有効です。
温湿度管理・作業環境測定体制
熱中症対策の強化には、温湿度管理と作業環境測定体制の整備が不可欠です。
熱中症対策においては、WBGT(暑さ指数)の活用が義務付けられています。WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)とは、熱中症の予防を目的として、アメリカで提唱された指数です。熱中症の発生に大きく関わるとされる「湿度」「日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境」「気温」の3つを考慮し、摂氏(℃)で表されます。
屋外や倉庫、工場、厨房などの高温環境になりがちな場所では、WBGT計を用いた定期測定を行うことが望ましいとされています。身体作業強度等に応じたWBGT基準値は、以下のとおりです。
| 区分 | 身体作業強度の一例 | WBGT基準値(℃) | |
|---|---|---|---|
| 暑熱順化者 | 暑熱非順化者 | ||
| 0:安静 | 安静または楽な座位 | 33 | 32 |
| 1:低代謝率 |
| 30 | 29 |
| 2:中程度代謝率 |
| 28 | 26 |
| 3:高代謝率 |
| 26 | 23 |
| 4:極高代謝率 |
| 25 | 20 |
WBGT計の計測結果を基に、作業計画(休憩計画を含む)を立てましょう。温湿度は確認するだけでなく、しっかりと記録し保存することが大切です。
<参照>
環境省「暑さ指数(WBGT)について」
厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱」
作業負荷の管理・休憩の確保・水分補給体制
熱中症を防ぐためには、作業負荷の管理や休憩の確保、水分・塩分補給体制の強化も重要です。
高温多湿な環境で作業を行う場合は、作業の負荷を軽減させるためにも、「暑熱順化」の期間を設けましょう。暑熱順化とは、体を暑さに慣れさせることを指します。特に、高温多湿な環境で作業を新たに行う場合や、長期間空けて作業を再開する際は、計画的に暑熱順化期間を設けることで、熱中症のリスクを軽減できます。
また、高温多湿な場所での作業を連続して実施すると、熱中症になるリスクが高まります。そのため、定期的な休憩時間の設定や、作業時間の短縮を実施しましょう。休憩時間を明確にしたり、冷房の効いた休憩所を設置したりすることで、従業員が休憩しやすい環境づくりができます。
水分補給体制を整えるには、スポーツドリンクの常備が効果的です。作業現場にて、こまめな水分・塩分補給を促す仕組みを作りましょう。加齢や持病などにより、脱水症状に気づきにくい場合もあるため、事業者が定期的に見回りを行い、積極的に声かけを行うことも重要です。
記録・管理体制の整備と緊急時対応
熱中症の対策を強化していても、気温の急上昇や体調の変化などにより、熱中症が発生するケースがあります。そのため、発生時の状況を把握し、再発防止につなげるための記録・管理体制の整備が重要です。
具体的には、温湿度の記録に加え、休憩時間の取得状況、水分・塩分補給に関する指導や声かけの実施記録、作業内容や作業時間を含む作業計画などを継続的に記録・保存できる仕組みを整えましょう。これらの記録は、対策が適切に行われていたかを確認するだけでなく、今後の改善にも役立ちます。
併せて、熱中症発生時の対応手順や応急処置、救急搬送のフローを明確化することで、迅速な初動対応が可能になります。さらに、病院や診療所などの緊急連絡先一覧をあらかじめ作成し、関係者に周知しておきましょう。管理者や従業員の緊急連絡先を事前に確認しておくことで、万が一の際にも関係先へ速やかな連絡ができ、重症化の防止につながります。
熱中症対策の強化に向けた職場環境整備

熱中症対策の義務化に対応するためには、職場環境を整備する必要があります。熱中症対策を強化する主なポイントは、以下のとおりです。
- 温湿度管理・記録のためのツール導入
- 水分補給・塩分補給体制
- 休憩スペース・冷却備品の整備
それぞれを詳しく解説します。
温湿度管理・記録のためのツール導入
熱中症は、高温・多湿・急激な気温上昇・風の弱さなど外的要因により体温調節がうまくいかず、体内温度が過剰に上昇したときに発生します。そのため、熱中症を防ぐには、気温や湿度を測定し、記録し管理することが重要です。
気温や湿度を管理する主なツールには、以下が挙げられます。
- WBGT計
- 温湿度計
- 熱中症判定カメラ
計測器を導入する際のポイントは、自動記録システムやアラート通知などが付いていることです。必要な数値が自動で記録されることで、業務負担の削減や、記録忘れの防止が期待できるでしょう。
飲水・塩分補給体制
熱中症を防ぐには、水分や塩分の補給も欠かせません。そのためには、休憩時間に合わせて、管理者が飲み物などを配布することも有効です。
熱中症のリスクが高い場所での作業を実施する場合は、これらの飲み物などを常備しておくと安心です。また、管理者が定期的な水分や塩分の摂取を促すことで、休憩をとりやすい環境も整えましょう。
休憩スペース・冷却備品の整備
熱中症を防ぐには、体内の温度が上がり過ぎないことが重要です。
身体の温度を下げるには、エアコンが効いた休憩室の用意が必要です。エアコンの設置が難しい場合や、エアコンだけでは効果が不十分な場合は、冷風機も併用しましょう。
身体の中から体温を下げるには、冷たい飲み物の摂取も効果があります。飲み物を冷たいまま保存できるよう、冷蔵庫やクーラーボックスを設置してください。
また、作業中の体温上昇を防いだり、熱中症になったときに素早く体温を下げたりするには、冷却グッズが効果的です。冷却タオルやアイスパックなどを揃え、いつでも使用できるよう用意しておくようにしましょう。
まとめ
2025年に行われた労働安全衛生規則の改正により、事業者による熱中症対策が義務化されました。近年の猛暑の常態化を背景に、増加傾向にある熱中症災害への対応強化が目的です。
改正内容を踏まえた熱中症対策を強化するには、就業規則や社内規程を見直し、内容を従業員へ周知することが重要になります。あわせて、温湿度の把握、作業負荷を考慮した作業計画の策定、適切な休憩時間の確保や水分補給の実施など、日常業務の中で実践できる対策を継続的に行う必要があります。
<参考>
暑さ指数(WBGT)とは?職場の熱中症リスクを減らすための基準・計測方法
暑さ対策の基本|水分補給だけではない熱中症の対策
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