更新日:2026年2月26日
介護施設・事業所におけるBCPとは?義務化や策定のポイントを解説

介護施設・事業所では、災害や感染症などの緊急事態が発生した場合も利用者の安全とサービスの継続を確保するためのBCP(事業継続計画)策定が義務化されています。さらに2025年4月からは、BCP未策定事業所への介護報酬減算が適用されるため、法令対応とともに具体的なリスク対策が急務となりました。
本記事では、介護施設・事業所のBCP義務化の背景や流れ、策定時に押さえておきたいポイントについて解説します。
介護施設・事業所におけるBCPとは

BCP(Business Continuity Plan)とは「事業継続計画」のことを指します。地震や津波・豪雨といった自然災害への対策に加えて、感染症対策などもBCPに含まれる事項です。こうした予測不能な事態に直面した際でも事業を継続できるよう備える計画です。
介護施設・事業所におけるBCPとは、災害や感染症などの緊急事態の発生時でも、利用者の安全を確保しつつ、必要なサービスを維持するための計画を指します。建物や設備の安全対策だけでなく、連絡体制、物資の備蓄、人員確保、役割分担の明確化など、多面的な準備をしなくてはなりません。
BCPは「感染症への備え」と「自然災害への備え」という2つの視点から構成され、それぞれの状況に応じた対応をまとめておくことが重要です。
BCPについては以下の記事で詳細に紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
<参考>
事業継続計画(BCP)とは?構築方法や災害時のリスク管理
感染症発生時のBCP
感染症が発生した際には、利用者や職員への感染拡大を抑えつつ、サービスを継続するために、あらかじめ手順を整えておく必要があります。行動指針の明確化、健康観察の徹底、ゾーニングの設定、個人防護具(PPE)の準備は基本的な要素です。
発熱者や感染者が出た場合の対応、濃厚接触が疑われる職員の扱い、訪問サービスの実施可否などの判断基準をあらかじめ整理しておくことで混乱を防げます。また、複数の職員が同時に離脱する場面を想定し、代替要員の確保や業務の優先順位づけを進めておくことも欠かせません。平時からの備蓄や訓練を継続することが、初動対応の質を左右します。
自然災害発生時のBCP
自然災害への備えとしては、地震・台風・豪雨など、自施設に起こり得る災害を把握した上で、必要な対応策をまとめていく流れになります。避難経路や避難先の確認、食料・水・医療資材の備蓄、非常用電源の準備など、施設の状態に合わせた計画が必要です。
停電や断水が長引く場面を想定し、必要な設備の稼働方法を確認しておくと、緊急時の判断がスムーズになります。移動が難しい利用者が多い施設では、誰がどのタイミングで避難を判断するのか、役割分担と判断基準を明確にしておくことも重要です。周囲の事業所や地域との連携体制を平時から整えておくことで、災害時の情報共有や支援が進みやすくなります。
介護施設・事業所は2021年4月にBCP策定の義務化対象に追加

2021年度の介護報酬改定により、全ての介護施設・事業所に対してBCP策定が義務付けられました。感染症と自然災害の双方を対象とした業務継続計画を整えることで、緊急時でも利用者の生活を守り、サービスの中断を最小限に抑えることが目的です。新型コロナウイルスの影響や、近年の災害被害の増加を背景に、その必要性が制度として明確に位置付けられました。
義務化に伴い経過措置(努力義務)期間が設けられていましたが、2025年4月からはBCP未策定の事業所に対して介護報酬の減算が適用されます。
そのため、BCPの作成は「準備しておくことが望ましい」段階から、「避けられない必須要件」へと移行しました。計画書の整備だけでなく、職員への周知、訓練の実施、定期的な見直しなど、年間を通して運用し続ける体制づくりが強く求められています。
BCPは単なる文書作成ではありません。感染症発生時の行動指針、非常時の人員確保、物資・設備の備蓄、自然災害時の避難体制など、多岐にわたる準備が必要です。制度対応という側面に加え、利用者の安全と事業継続を守るための実践的な仕組みとして位置付けることが重要です。
BCP策定の基本ステップ

BCPは、緊急事態に直面した際でも介護サービスを継続できる体制を整えるための計画であり、場当たり的な対応ではなく、あらかじめ一連の流れを整理した上で作成することが重要です。
特に介護施設・事業所では、感染症と自然災害の双方を想定し、「誰が」「何を」「どの手順で」実行するのかを可視化しておくことが欠かせません。以下では、実際にBCPを作成する際の基本ステップを5段階に分けて解説します。
1. リスクの洗い出し
BCPの出発点となるのが、その施設にとって想定されるリスクを具体的に把握する工程です。感染症の流行、地震・水害・停電などの自然災害、職員の急減や物資不足といった要因が、通常のサービス提供にどのような影響を及ぼすのかを明確にしていきます。
地域性や建物構造、利用者の心身状態なども加味し、事業所特有の脆弱性を明確化することで、以後の計画内容に現実性を持たせることができます。
2. 優先業務の選定
リスクを把握した上で、緊急時に優先すべき行動や体制を明確にしていきます。サービス提供の継続可否の判断基準、最小限維持すべき業務、感染拡大防止策、避難手順などを検討し、事業所としての基本的な考え方を決定します。
特に、利用者の安全確保を最優先とし、必要に応じて自治体や関連施設への外部支援の要請を行うなど、実行可能な方針を策定することが求められます。
3. 発動基準の設定
BCPを機能させるためには、「どのような状況になったらBCPを発動するのか」という基準を事前に明確化しておくことが不可欠です。発動の判断が現場任せになると、対応の遅れや混乱を招くおそれがあります。
感染症対策では、地域での感染拡大状況、施設内での感染者・濃厚接触者の発生、職員の出勤率低下などを指標とし、通常体制から非常体制へ移行する判断基準を段階的に設定します。たとえば「施設内で感染者が確認された時点」「一定割合以上の職員が出勤できない場合」など、具体的な条件を定めておくことが重要です。
自然災害への対応においては、気象警報や避難情報の発令、停電・断水などライフラインの停止、建物や周辺環境への被害状況を基に、BCPを発動するタイミングを整理します。特に夜間や少人数体制の時間帯も想定し、発動判断の目安を明文化しておくことが求められます。
このように、発動基準を具体的かつ客観的に設定し、職員間で共有しておくことで、緊急時にも迅速かつ統一された初動対応が可能になります。
4. 対応体制・手順の策定
緊急時の対応方針に沿って「誰がどの役割を担うか」を決め、実働できる体制を構築します。管理者・感染対策担当者・連絡調整係など、役割ごとに責任の範囲や指示系統を整理しておくことが重要です。
加えて、代替要員の確保や外部機関との連携ルートを整備しておくことで、職員欠勤やライフライン分断時にも対応しやすい体制を構築できます。
発動基準を策定したら、感染症や災害時に備え、事業継続に不可欠な物資や設備を事前に確認・備蓄する工程に移ります。具体的には、マスク・消毒液・防護具などの衛生資材、非常食・飲料水・簡易トイレなどの災害備蓄、携帯電源や予備バッテリーといった設備類を整理し、それぞれの数量・保管場所・使用手順を明確にします。
また、物資調達が困難になる事態も想定し、調達ルートを複数設定する、資材や非常食などの期限管理を行っておくのも大切です。
5. 研修・訓練
BCPは策定して終わりではなく、定期的な検証が必要です。定期的に研修・訓練を行い、実施後には課題を分析し、計画の改善につなげましょう。
感染症対応訓練、避難訓練、連絡体制の確認など、想定するリスクごとに実践的な見直しを継続的に行うことで、緊急時の対応力が高まります。計画は事業所の体制や地域状況の変化に合わせて更新し、常に最新の状態を維持することが求められます。
BCP策定時に押さえておきたいポイント

BCPを実際に機能する計画として運用するためには、介護現場ならではの視点を加えておくことが大切です。
ここでは、計画の実効性を高めるために特に重要なポイントを見ていきましょう。
感染症対策におけるポイント
感染症対策では、状況が刻々と変化する点を踏まえ、行動レベルを段階的に切り替えられる仕組みをあらかじめ取り入れることが重要です。サービス縮小や面会制限など、判断が分かれやすい項目ほど基準を明確にしておくと、現場で迷いが生じにくくなります。
また、介護現場で特に問題となりやすいのが職員同士の接触機会の多さです。平時からチーム編成を固定するなど、クラスターを生じにくい勤務体制を取り入れておくことで、事業継続性が高まります。
自然災害対策におけるポイント
自然災害対策では、同じ施設でも時間帯と利用者の特性によって対応の難易度が変わります。夜間帯や少人数勤務時の対応を前提に、限られた人員で安全確保を行う手順を事前に整理しておくことが実効性の高いBCPにつながります。
また、水害・地震・停電など災害の種類ごとに優先順位が異なるため、「どの段階で避難を決定するか」を事前に決めておくことも重要です。
介護施設・事業所においてBCPを策定するメリット

介護現場では、感染症や災害などの緊急事態によって、日常業務が大きく影響を受けることがあります。こうした状況でも利用者の生活を守り、事業を継続する上で役立つのがBCPです。
ここでは、介護施設・事業所がBCPを策定することで期待できる主なメリットを紹介します。
利用者やスタッフの安全を守れる
BCPの整備によって、感染症や自然災害などの緊急時に迷わず行動できる体制が整います。役割分担や避難手順、優先的に守るべき利用者への対応が事前に整理されているため、状況が急変しても人的被害を最小限に抑えやすくなる点が大きなメリットだといえるでしょう。
特に介助や医療的ケアが必要な利用者が多いため、安全確保の手順を明確にしておくことが重要です。
事業内容の見直し・改善に貢献する
BCPの策定では、リスクの洗い出しや業務の優先順位付けを行うため、普段気づきにくい業務の重複や非効率が明らかになることがあります。その結果、平時の業務フローが整理され、日常のサービス改善につながる場合も少なくありません。
BCPは緊急時の対策ではあるものの、策定の過程で施設運営全体の品質向上に貢献できる点も、大きなメリットです。
ワクチンの優先接種の対象になる
介護施設・事業所がBCPを作成し、所定の申請を行うと、職員は新型インフルエンザ等の感染症流行時に「特定接種」の優先対象になります。この制度は、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき定められており、国民生活や経済活動の維持を維持する上で重要な求められる分野として介護事業所も対象業種に含まれます。
優先接種を希望する場合は、BCP策定済みであることを証明し、登録申請が必要です。こうした制度により、流行時にも利用者へのサービスや施設運営を安全に継続しやすくなっています。
税制優遇・金融支援や補助金などの対象になる
介護施設・事業所がBCPを策定し、「事業継続力強化計画」など国の認定を取得すると、特定の防災・減災設備への投資に対して特別償却などの税制優遇、低金利融資の金融支援、さらに自治体による補助金が受けられます。
申請には認定計画を作成し、設備投資等の内容を記載の上、審査を受ける必要があります。
<参照>
中小企業庁 事業継続力強化計画
BCPを策定しないことによるデメリット

BCPを整備していない場合、緊急時の対応が遅れやすくなるだけでなく、事業運営の面でも大きな不利益が生じる可能性があります。
ここでは、BCPを未整備のままにすることで起こり得る代表的なデメリットを紹介します。
介護報酬が減算になる
2025年4月からは、BCPを策定していない介護施設・事業所に対して介護報酬の減算が適用されるようになりました。そのため、未策定のまま運営を続けることは、事業継続性の観点からも大きなリスクになる可能性があります。
安全配慮義務違反のリスク
災害や感染症が発生した際に適切な初動対応ができなければ、安全配慮義務違反として責任を問われるリスクがあります。
介護施設・事業所は避難介助が必要な利用者や、感染症に弱い高齢者が多く、対応の遅れが重大な結果につながりやすい環境です。BCPが整備されていない場合、混乱が生じて利用者に被害が及んだ場合、損害賠償や行政処分につながる恐れもあるでしょう。
そのため平時から計画を整え、有事の際には実行できるようにしておくことが、法的リスクの回避と施設の社会的信用維持に欠かせません。
まとめ
介護施設・事業所にとってBCPは、利用者と職員を守りながら事業を続けるための重要な基盤です。災害や感染症に備えて手順をあらかじめ整理しておくことで、緊急時の混乱を最小限に抑え、安心してサービスを提供できる環境につながります。
また、施設の状況に合わせて継続的に見直すことで、より実効性の高い計画を策定することが可能です。
<参考>
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