更新日:2026年7月2日
飲食店・キッチンカーの暑さ対策|厨房・ホール・移動販売の現場別マニュアル

夏場の飲食店では火を使う厨房、蒸気のこもる洗い場、直射日光が当たるテラス席、そして車内が50℃近くまで上昇するキッチンカーなど、業態を問わず暑さリスクが高い環境が存在します。さらに2025年6月施行の改正労働安全衛生規則により、一定の暑熱環境で働く事業者には熱中症対策が義務付けられました。
本記事では飲食店オーナー・店長、キッチンカー事業者の方に向け、厨房、ホール、キッチンカーそれぞれの現場で実践できる暑さ対策を設備・グッズ・運用ルールの3つの切り口で解説します。
飲食業の暑さリスクが特に高い4つの理由

飲食業の現場は、他業種と比較しても暑さリスクが高い環境です。背景には次の4つの要因があります。
1.火気・熱源による高温化
コンロ・オーブン・フライヤー・グリドルなどの調理機器が常時稼働し、厨房内の気温は外気+5〜10℃に達することも珍しくありません。特にピークタイムは熱源が集中し、局所的な高温になりやすい状況です。
2.蒸気・湿度の上昇
茹で麺・蒸し料理・食洗機などから発生する蒸気が湿度を押し上げ、体感温度をさらに高めます。湿度が高いと汗の蒸発が妨げられ、体温調節が難しくなります。
3.狭小空間と動線の制約
厨房は限られたスペースに人と機器が密集するため、空気が滞留しやすく、エアコンの冷気も均一に届きにくい構造です。
4.服装・身だしなみの制約
衛生管理上、長袖コックコート・帽子・前掛けの着用が一般的で、体熱の放散が抑制されます。これら4要因が重なることで、厨房内のWBGT(暑さ指数)値は屋外を上回るケースもあります。
飲食店も熱中症対策義務化の対象に
2025年6月施行の改正労働安全衛生規則により、WBGT(暑さ指数)28℃以上または気温31℃以上の環境で連続1時間以上、または1日4時間を超えて作業する場合、事業者は熱中症対策を講じる義務を負います。飲食店の厨房はこの基準を満たすケースが多く、規模を問わず対応が必要です。事業者に求められる主な義務は次の2点です。
①体制整備:作業環境のWBGT(暑さ指数)測定、責任者の選任、休憩場所の確保、水分・塩分の備蓄など。
②対応手順の作成:熱中症が疑われた際の発見・連絡・応急処置・救急要請までのフローを文書化し、従業員に周知すること。
違反した場合は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。義務化の全体像や設備・グッズ・運用の詳細は、こちらの記事で確認ができます。
厨房の設備対策|スポットクーラー・換気・遮熱の3点で環境を整える
厨房の暑さ対策は、空間全体を冷やすより、人がいる場所をピンポイントで冷やす方が良いでしょう。火気周りでは天井エアコンの冷気が熱気で押し上げられ、調理スタッフの足元まで届きにくいためです。
業務用スポットクーラーは厨房対策の主役となる設備です。冷房能力は調理エリアの広さに応じて選定し、10〜20㎡の小規模店なら2.5kW前後、30㎡超の中〜大規模厨房なら3.5〜4.0kW以上が目安となります。排熱ダクトを店外や換気フード方向へ逃がすことで、室内温度の上昇を抑えられます。
<参考>
業務用スポットクーラーの選び方|失敗しない6つのポイント
換気・排気の見直しも同時に行いたいポイントです。レンジフードのフィルター清掃、ダクト内の油汚れ除去、給気ファンの追加などで換気効率を高めると、スポットクーラーの効きも向上します。遮熱対策としては、調理機器の側面に遮熱パネルを設置する、窓に遮熱フィルムを貼る、床面に断熱マットを敷くといった方法が有効です。
厨房スタッフの個人装備|ファン付きウェアは使える?代替グッズは?
建設業や工場で広く普及しているファン付きウェア(バッテリー駆動の小型ファンを内蔵した作業着)ですが、厨房では火気との距離・衛生面・油はね等の理由から使用が難しいケースが多い点に注意が必要です。バッテリーの発熱・引火リスク、油はねによる故障、ファンが髪や食材へ異物混入する懸念、衛生基準(HACCP)への適合など、複数の観点で慎重な判断が求められます。
そこで、厨房スタッフの個人装備は「冷却インナー+冷却小物」の組み合わせがおすすめです。具体的には、接触冷感素材のインナーシャツ、PCM素材(28℃や24℃で凍結する特殊素材)を使用したネッククーラー、保冷剤ポケット付きベスト、吸汗速乾のコックコート、滑りにくく通気性のある厨房シューズなどです。
場所別ファン付きウェアの使用可否と代替手段
| 従事場所 | 使用可否 | 主なリスク・理由 | 推奨される代替・補完手段 |
|---|---|---|---|
| 厨房(火気周り:コンロ・フライヤー・グリル前) | ✕ 不可 | バッテリー発熱・引火、油はねによる故障、異物混入リスク | 接触冷感インナー+PCMネッククーラー+スポットクーラー |
| 厨房(火気から離れた仕込み・盛り付けエリア) | △ 条件付き可 | 衛生基準(HACCP)への適合確認、毛髪・粉塵混入リスク | フード一体型・密閉性の高いモデル、または冷却インナーで代替 |
| 洗い場・ディッシュアップ | △ 条件付き可 | 蒸気・水濡れによる電気系統故障の懸念 | 防水仕様モデル、または冷感インナー+保冷剤ベスト |
| ホール(接客エリア) | ✕ 不可 | 接客上の見た目、店舗イメージとの不一致 | 薄手の接触冷感インナー、ハンディファン(バックヤード使用) |
| キッチンカー車内(調理中) | ✕ 不可 | 火気・狭小空間でのバッテリー発熱リスク | ポータブルクーラー+PCMネッククーラー+冷感インナー |
| キッチンカー車外(仕込み・搬入・撤収作業) | ◯ 可 | 屋外作業時は有効 | 通常運用、休憩時にバッテリー交換 |
| 屋外テラス・ビアガーデンの設営・撤収 | ◯ 可 | 特になし | 通常運用 |
※ 衛生基準は店舗の独自規定により異なります。導入前に必ず社内の衛生管理責任者と検討しましょう。
ホール・客席の暑さ対策|お客様とスタッフ双方の快適性を確保
ホールエリアは、お客様の快適性とスタッフの労働環境を両立させる必要があります。出入り口からの外気流入を抑えるエアカーテン、客席の温度ムラを解消するサーキュレーター、窓際の直射日光を防ぐ遮熱フィルム・ロールスクリーンなどが基本対策となります。スタッフ側の装備は制服の下に着用できる薄手の接触冷感インナー、休憩時に首元を冷やせるPCM(28℃や24℃で凍結する特殊素材)ネッククーラー、バックヤードで使えるハンディファンなどが実用的です。こまめな水分補給ルールの徹底も、ホールスタッフの健康維持に欠かせません。
キッチンカー・フードトラック特有の暑さ対策

キッチンカーは車内温度が真夏には45〜55℃に達すると報告されており、飲食業の中でも特に厳しい環境です。狭小空間に調理機器が集中し車体が直射日光で熱せられるため、固定店舗以上にさまざまな対策が求められます。
車体側の対策としてはルーフへの遮熱塗装・遮熱シート施工、窓の遮熱フィルム、ルーフベンチレーター(換気扇)の設置などで車体温度の上昇そのものを抑えます。冷房設備はポータブルクーラー(冷房能力1.0kW前後)や車載用エアコンが選択肢となりますが、消費電力が大きいためポータブル電源やサブバッテリーの容量を併せて検討する必要があります。一般的に、ポータブルクーラーの連続稼働には1,500〜2,000Wh以上の電源容量が目安です。
スタッフの装備は火気が近く狭小空間のため、厨房と同様にファン付きウェアの使用は推奨されません。冷感インナー、PCM(28℃や24℃で凍結する特殊素材)ネッククーラー、保冷剤ベスト、クールタオルなどを組み合わせ、短時間サイクルで車外休憩をとる運用が現実的です。出店場所の選定時に、日陰や休憩スペースが確保できるかも事前確認したいポイントです。
水分・塩分補給とシフト管理|運用ルールの整え方

設備とグッズを整えても、運用ルールがなければ熱中症は防げません。水分・塩分補給は、喉が渇く前にこまめに摂ることが原則です。経口補水液、スポーツドリンク、塩タブレットを厨房・バックヤード・キッチンカー車内に常備し、誰でも自由に取れる体制を整えましょう。
シフト管理ではピークタイム前後の休憩確保、火気エリア担当者のローテーション、休憩場所の温度管理(できれば25℃以下)を運用ルールとして文書化します。新人やアルバイトスタッフには、入店初日に熱中症の初期症状と緊急時の連絡方法を伝えるオリエンテーションを実施することも重要です。
<参考>
経口補水液(ORS)とは?効果・正しい飲み方と活用シーンを解説
暑さ対策におすすめの飲み物とは?スポーツドリンク以外や避けるべき飲料も解説
熱中症発症時の対応フロー|厨房・キッチンカーでの初動
厨房やキッチンカーで熱中症が疑われる症状(めまい、立ちくらみ、大量の発汗、頭痛、吐き気、倦怠感、意識のもうろう、けいれん等)が出た場合、初動の遅れが重症化を招きます。下図のフローに沿って、迷わず対応できるよう事前に全スタッフへ周知しておきましょう。

特に飲食現場で注意したいのは、STEP1で火気・調理機器を必ず止めることです。倒れたスタッフの近くで火が稼働し続けると、二次災害(火災・やけど・油こぼれ)につながります。意識がもうろうとしている、自力で水を飲めない、けいれんがあるなどの重症サインが見られた場合は、ためらわず119番通報してください。
よくある質問(FAQ)

Q1.厨房スタッフにファン付きウェアを着せたいのですが、安全面で問題ありませんか?
A.火気周りでの使用はバッテリーの発熱・引火リスクや油はねによる故障、衛生面の懸念から推奨されません。火気から離れた仕込みエリアであれば条件付きで使用可能なケースもありますが、HACCP等の衛生基準への適合を社内で確認した上で導入してください。火気周辺では接触冷感インナーとPCMネッククーラー、スポットクーラーの組み合わせがおすすめです。
Q2.キッチンカーにエアコンを設置するのは現実的ですか?
A.ポータブルクーラー(冷房能力1.0kW前後)や車載用エアコンを設置している事業者は増えています。ただし消費電力が大きいため、1,500〜2,000Wh以上のポータブル電源やサブバッテリーシステムが必要です。導入コストと出店場所の電源事情を踏まえて検討してください。
Q3.小規模な個人店でも熱中症対策の義務化対象になりますか?
A.はい。改正労働安全衛生規則は事業規模を問わず適用されます。WBGT(暑さ指数)28℃以上または気温31℃以上の環境で1時間以上または1日4時間超の作業がある場合、対象となります。厨房はこの基準を満たすケースが多いため、規模に関わらず対応が必要です。
Q4.ホールスタッフから「制服が暑い」と苦情があります。どう対応すべきですか?
A.制服の下に着用できる薄手の接触冷感インナーの導入、休憩時のPCM(28℃や24℃で凍結する特殊素材)ネッククーラー貸与、休憩場所の温度管理(25℃以下が望ましい)が有効です。ピークタイム前後の小休憩を運用ルール化し、こまめな水分補給を促す体制づくりも合わせて検討してください。
まとめ
飲食業の暑さ対策は、火気・蒸気・狭小空間・服装制約という4つの要因が重なる難易度の高い課題です。厨房・ホール・キッチンカーそれぞれの現場特性に応じて、
- ①スポットクーラー等の設備対策
- ②冷感インナー・PCMネッククーラー等の個人装備
- ③水分補給・シフト管理・初動フローの運用ルール
この3つの軸で整えることが、熱中症対策の義務化対応とスタッフの健康維持の両立につながります。
<参考>
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